orutana2020のブログ

文章を書く上で疑問に思った事や、調べた事を適当に掲載します

やしあか動物園の妖しい日常 53〜55話

魔女狩り

 

 出勤三日目も昨日と同じように担当コーナーへ歩いて行き、掃除と給餌の準備に取り掛かる。

 馬小屋の掃除をしていると、旅人馬のシーバさんが話し掛けて来た。

「紗理っち、昨夜の歓迎会は楽しめたのかい?」

「それはもう楽しめましたよ~。料理は美味しかったし、お酒もたくさん呑んで最高でした。シーバさんも来てたんですか?」

「そうか、良かったな。少し遅れて行ったが、オレもトクやラゴスと一緒に酒をガブ呑みしながら楽しんでいたよ」

 シーバさんてトクさんにラゴスさんと仲が良いのか。意外な組み合わせ...

 こうやって徐々に妖怪達の関係性が分かってくると、仕事もやり易くなるのかも知れない。

 気になっていた河童の妙薬について、シーバさんが何か知っているか訊いてみると、池掃除担当の河童のワッパさんという妖怪が作っているという情報を入手出来た。そのうち会いに行ってみよう。

 掃除と給餌を済ませたあと、サトリさんのことが気掛かりだったので顔を見に行った。

 兎小屋を覗くと、サトリさんは他の兎に混ざってニンジンをカリカリと美味しそうに食べている。

 人間とは不思議なものでほんの少しでも相手のことを理解すると、時として親近感が湧くものだ。最初に会った時はさほど可愛いと思わなかったサトリさんを、今のわたしは食べる姿が可愛いとすら思いながら眺めている。

 ん?サトリさんの動きが急に止まりわたしに視点を合わせた。

「紗理っち、今、ボクのことを可愛いと思ったろ」

 あっ!うっかり魔法障壁で防ぐのを忘れてしまった。

「べ、別に可愛いと思ったって良いじゃないですか!悪いことでもないだろうし...」

「て、照れてしまうから止めてくれないかな?」

「照れなくても良いですよ。ところで昨夜は大丈夫だったんですか?」

「大丈夫だったよ。紗理っちが魔法の期限を教えてくれたお陰で、ギリギリまで遊んでいられたよ。本当に感謝してる。ありがとう」
 
 これだ。悪戯っ子がたまに見せる素直な姿が「可愛い」と人を思わせるのだ。
 小動物の妖怪であるサトリさんは特に...

「いいえ~、必要な時はいつでも言ってくださいね」

 わたしはそう言ったあと久慈さんと合流し、事務所へ戻って行った。

 歩きながら物想いに耽る。
 やしあか動物園に来るまでのわたしは、外出する際に必ず魔力封じのブレスレットを着け、世間に魔女であることをひた隠しにして来た。
 もちろんそれはSNSなどで言うところの[魔女狩り]とは違い、社会的な事実上の魔女狩りをされて普通の生活が出来なくなるのを恐れてのこと。
 特異な能力は家の外で活かされず、希少な魔女の血はわたしにとってハンデでしかなかった。
 だからこそ、やしあか動物園で魔法を使い役立てられる現状に、わたしは至上の喜びを感じている。

 

 

[人間の姿である理由]

 

 事務所に着いてデスクの椅子に座り、ノートパソコンを立ち上げ、やしあか動物園のホームページにログインする。

 久慈さんが昨日の歓迎会の画像を撮っていたらしく、その様子を記事にしてホームページに掲載したいらしい。

「はい、このUSBメモリに画像が入ってるから観てくれるかな」

 USBメモリを受け取り早速確認する。
 パソコン画面に100以上の画像がずらりと並ぶ。どんだけ撮ったんだ久慈さん...

 画像を眺めていてふと思う。

 写っているのは妖怪のはずなのだけれど、みんな普通の人間にしか見えない。
 そう見えるように化けているのだから当然と言えば当然か...
 他の人に聴こえないように、久慈さんの耳元に口を寄せ、声を細めて訊いてみる。

「あの、人間に化けてる妖怪が妖怪の姿をしているところをまだ見たことが無いんですけど、何か理由があるんでしょうか?」

 今度は久慈さんがわたしに同じようにして話す。

「それはね。僕も入社した最初のころ疑問に思って園長に訊いたことがあるよ。園長が言うには、人間のことをより深く知り、不安定な妖怪社会を人間社会のような安定したものにしたくて、人間の姿を常に保つようにしてるんだってさ」
 
 なるほど、常に人間の姿でいれば効率良く人間社会のような社会を作り出せるということか...。実際にその取り組みが功を奏しているからこそ、今のやしあか動物園があるんだもんなぁ。

「納得がいきました。ありがとうございます」

 疑問が晴れて画像の閲覧に戻り、一つ一つ観て行くと、みんなが本当に楽しそうな笑顔をして写っている。何だか微笑ましい。

 中にはわたしが嬉しそうに、のほほんとしながら料理を食べている画像もあった。
 これはちょっと恥ずかしい。わたしのこの画像は削除してしまおうかな...

「あっ!この画像は使ってね。やしあか食堂の美味しい料理を食べる風景として最適だから」

 げぅっ!?採用されてしまった...

「これはちょっと恥ずかしいんですけど」

「全然恥ずかしい画像じゃないよ。すごく良い画像だと僕は思うよ」

「そ、そうですか。わかりました」

 この画像はロブスターのガーリックバター焼きを食べている場面だ。
 文章を付けるならこうだろうか?「やしあか食堂絶品のロブスターガーリックバター焼きを美味しく食べる新人飼育員の紗理っち」。
 うん、こんなものだろう。

 他には園長が始まりの挨拶をする場面や、飼育員が壇上に上がってマジックしている場面、シラユキさんがカクテルバーでカクテルを呑んでいる場面などなど、全部で10枚ほどの画像に文章を加え、ホームページにアップする準備が整った。

「準備が終わりました。久慈さん、確認お願いします」

 

 

アイアンシェフ

 

 ホームページを更新する前に久慈さんの確認を受ける。

「うんうん、なかなか良い出来じゃないか。誤字脱字も無いようだし、このまま更新して構わないよ」

「了解です!じゃあ更新しちゃいますね」

 ハハッ、もしあの画像を友人に見られたらLINEグループで茶化されそう。
 でも、ホームページの更新が程なく終わり諦めもついた。

「腹も減って来たし、あと少し書類を片付けてやしあか食堂に行こうか」

 集中して仕事をしていれば時間が経つのも早い。腕時計を見ると、もうお昼前の時間になっていた。

「久慈さん、やしあか食堂に行った時に料理長のナカさんを紹介して欲しいんです。昨日お世話になったものですから」

「...それは全然構わないけど、今の時間帯はめちゃくちゃ忙しいから相手にされないかも知れないよ」

「あっ、そっかぁ...忙しいお昼時に挨拶したらナカさんの邪魔になっちゃいますね」

 こう言うところがわたしのまだ足りないところなんだよなぁ...相手の事情も考慮しなければ。

「やしあか食堂は3時頃になると落ち着くはずだから、その時間帯に挨拶しに行こうよ」

「えっ!?良いんですか?ありがとうございます!」

 そこから久慈さんの書類作成を少し手伝ったあと、足速にやしあか食堂へ向かった。

 やしあか食堂の中に入ると、昨夜の歓迎会の会場が普段のやしあか食堂の姿に戻り、一般のお客さんで賑わっていた。

 従業員の人達は今日も忙しく動いている。

「あれ!?今更なんですけど、やしあか食堂に店休日ってあるんですか?」

「働く人達は可哀想だけど、ほぼ年中無休でやってるよ。従業員は交代制で休みを取ってるみたい。ただ、料理長のナカさんだけは過去に休んだ日が無いらしいけど」

「ま、正にアイアンシェフ!なんちゃって~」

 初めてかは分からないけれど、冗談を言ったつもりなのに、久慈さんの表情は微塵も変わらない。
 もう、暫くの間は久慈さんに冗談を言うのは止めておこう...

「今日も日替わり定食で良いかい?」

「はい!日替わりでお願いします。すみません、書いてもらっちゃって」

「書くだけだから何も問題はないよ。でも今日はワラさんとカヤさんは休みみたいだね」

 久慈さんがそう言ってから、わたしが周りを見渡しても、確かに双子の猫娘の姿は見当たらなかった。

 キョロキョロするわたしと久慈さんのそばに、一人の可愛らしい女性が近寄って来る。

「久慈っちに...えっと、紗理っち、わたしは初めてだったわねぇ。今日はワラとカヤの二人は休んでるわ。ランチの注文ならわたしが受けるわよ」

「忙しいのにすみませんニグチさん。これ、注文のメモです」

「日替わり二つね。じゃあ部屋で待ってて」

 ニグチさん?はメモを受けとると厨房の方へ向かって行った。

 

===============================
過去の作品はこちらにまとめてあります!

 https://shouseiorutana.com
===============================