orutana2020のブログ

文章を書く上で疑問に思った事や、調べた事を適当に掲載します

やしあか動物園の妖しい日常 89〜第一部最終話

[猫と話す条件]

 

「ご馳走様でしたって!お風呂に入って来るね!」

 急いで夕食を済ませ魔女秘伝の入浴剤入りのお風呂に浸かる。

「はぁ~、良い気持ち~生き返るわぁ」

 今日も色々あって思いのほか疲れていた身体が、暖かいお湯と魔女秘伝の入浴剤の効果で癒される。

「....................」

「ブクブクブク……………ぷぶはぁーーーっ!?」

 あまりの気持ち良さにいつの間にか寝てしまったらしい。危うく溺れるところだった。
 浴槽から出て軽くシャワーで身体を流し、用意していた寝間着に着替える。

 濡れた髪をドライヤーでサッと乾かしラズと遊ぶためにダイニングキッチンへ向かう。

「真!あなたのラズタイムは終わりよ。さぁわたしにその子と猫じゃらしを渡しなさい」

「あと5分だけ遊ばせてよ。やっとラズが猫じゃらしに慣れて来たとこなんだ」

 考えてみれば、弟が楽しそうな顔をしているのを最近は見ていなかった。5分くらい大目にみてあげよう。

「分かったわ。5分だけよ」

「やりぃ!あんがと姉ちゃん」

 弟が引き続きラズと楽しそうに遊ぶ様子を見ていると。

「サリ、お父さんも猫じゃらしを使ってラズと遊びたいんだけど…ダメかな?」

 父が照れ臭そうにしなが訊いてきた。
 うう、拒否したらいじけてしまいそう...

「もう、仕方が無いな~。じゃあ真のあとで遊んでいいわよ」

 そう言うと父は満足そうな笑顔になり、テレビの方に目を向けた。

 ラズと遊ぶ前にちょっと時間が余っちゃったなぁ。
 皿洗いを手伝おうとして母の方を見ると、既に皿洗いは終わりコーヒーを入れて飲もうとしている。

「あっ!わたしも飲む~」

「良いわよ~。入れてあげるからコーヒーカップを持って来て」

 食器棚からコーヒーカップを取り出し母に持って行くと、コーヒーメーカーで作られたコーヒーを注いでくれた。

 そのまま母の隣に座り一緒になってコーヒーを飲む。

「ねぇ、お母さん」

「なぁに?」

「映画なんかでさ。魔女と猫の話すシーンがあるじゃない。お母さんが猫を飼っていた時に話したことってあった?」

「…ん~、そうねぇ。1年くらいのあいだだけ話せていたわね」

「えっ!?本当に魔女と猫は会話が出来るんだ。わたしにもラズと話せる日が来るかなぁ?」

 わたしは今まで動物と会話をしたことなど一度も無かった。是非ともそんな経験をしてみたい!

「残念だけどサリの場合は難しいかも」

「なんで!?」

「あのね…パートナーの猫と話すには条件があるのよ。しかもその条件の中には年齢的なものもあって、サリの場合はとっくに過ぎちゃってるのよねぇ…」

 えーーーっ!?それじゃどうしようもないじゃない。

「それってどれくらいの年齢だったら大丈夫だったの?」

「確か、10歳から15歳くらいだったかしらねぇ」

 猫と話すことへの希望は、ものの3分とかからず絶望へと反転してしまった。

 

 

[デレデレな父]

 

 嗚呼、何と無情な条件なのだろうか...こんなことなら子供の頃に猫を飼っておけば良かった。

「そんなにへこまないでよサリ。わたしは『難しい』って言ったのよ。だから全然可能性が無い訳ではないの。昔のことだけれど、わたしの母、つまりあなたのお祖母ちゃんから例外がある話を聞いたことがあったわ」
 
 例外...母は祖母からどんな話を聞いたのだろう。

「お母さんが聞いたお祖母ちゃんのその話を教えてよ~」

「...あぁ、え~と、ごめん。思い出せないわ。小さい頃に聞いた話で内容はあまり覚えていないの」

「そっかぁ...残念。でもいつかお祖母ちゃんと会った時に訊いてみるね」

 さっきまで猫と話せるなんて思ってもいなかったし、少しでも可能性が残ったということで。

 ふと気付くとラズの遊び相手は弟から父に代わっていて、父の戯れる様は溺愛する孫をあやすかのうようにデレデレだった。

 こんな父からラズを取り上げてしまうことは残酷とさ言えるのではなかろうか?

 しょうがないなぁ...

 今夜はラズと猫じゃらしで遊ぶことを諦め、母とたわいも無い雑談をしたあとテレビの恋愛ドラマをボ~ッと観ながら時間を潰す。

 ドラマが終わったところで父の方を見ると、猫じゃらしでのお戯れは終わったようで、父はラズを抱いて何やら話しかけていた。

 そろそろ部屋に連れて行こうかな...

「お父さん、もう十分ラズと触れ合ったんじゃない?時間も時間だし、部屋に連れて行ってもう寝たいんだけど」

「お、おお。すまんすまん。ラズが可愛いもんだからついつい遊び過ぎてしまったみたいだな。ほれ、サリお姉ちゃんのところ行きなさい」

 父はラズを床に下ろしてわたしの方に行くよう促した。

「ラズおいで~。わたしの部屋で一緒に寝るわよ~」

 そう呼び掛けると「ニャー」と一鳴してわたし方へゆっくり歩み寄る。優しく手で抱きかかえウリウリ。これって人間同士のハグみたいなものだな。

 弟は知らぬ間に部屋へ行ったようで、その場に残っていた両親に就寝前の挨拶をして自分の部屋に移動した。

 部屋に入ってすぐにベッドの上にラズと一緒に寝転び話し掛ける。

「今日はたくさん遊べてもらえて良かったねぇラズ~。明日はわたしとも遊んでよね」

「ニャァ」

 ん~、やっぱり「ニャァ」としか聴こえない。母は猫と会話をした事があると言っていたけれど、猫と話すって一体どんな感じなのだろう?
 父の好奇心旺盛な性格を受け継いでいるのか、やはり気になって仕方がない。

「いつか君と話せる日が来るといいなぁ...」

 ラズに話し掛けていると睡魔がやって来て、そのまま一緒に心地良い眠りについたのだった。

 

 

[不思議な夢]

 

 睡眠中に見る夢は、本人が夢と認識している場合と、現実世界と混同して見る場合があると思うけど、今わたしは夢だと認識しながら夢の中にいた。

 夢の舞台はやしあか動物園。久慈さん、園長、リンさん、コウさんなどなど、多数の人達が登場してくる。

 ハッキリとした言葉は聞き取れないけど、みんなが事務所の外に集まり何やら楽しそうに会話をしていた。

 わたしの足下にはなぜかラズの姿もある...あれっ?その姿をよく見てみると身体が大きい…。
 子猫から大人に成長したらこうなるだろうなという感じのラズ。

「サリ~、そろそろ見回りに行かなきゃ」

「そうねぇ…時間も無くなって来たから行くとしますか~」

 っ!?わたしがラズと普通に会話した!?

「紗理っち、これを使いなよ」

 久慈さんがそう言って綺麗な竹箒を渡して来る。

「ありがとうございます。久慈さん」

 受け取った竹箒にまたがると、その手元にラズがヒョイっと飛び乗った。

「じゃあ、みなさん行って来ます!」

 そう言ってヒュウッと上空に浮かび下を見下ろす。

 集まっているみんなが笑顔になり、宙に浮かぶわたしに手を振ってくれている。
 わたしは手を振り返してそこから空中を前に進みだした。
 なるほどね。この夢はラズと一緒にやしあか動物園全体の見回りをしているのか…

「あれって何かな?」

 ラズが何かに気付いたようだ。

 その視線の先に眼をやると、赤い発光体がものすごいスピードで向かって来る!

「ぶっ!ぶつかるーーーっ!」

 そこでわたしはハッと目を覚まし、夢は途切れてしまった。

 あの赤い発光体はなんだったのだろう?
 目覚まし時計に目をやると、ギリギリ目覚まし音の発動する1分前。
 二度寝して夢の続きを見る訳にもいかない。

「はぁ、気になるけどもう起きなきゃねぇ…」

 そう独り言をつぶやき、興味深い不思議な夢の余韻に浸りながらも朝の支度を始めた。

「おはよう」

「「おはよう」」

 ダイニングキッチンにはいつものように父と母が居た。

 父はラズを抱いてミルクを与えている。そうだ、ちょっと試してみよう…

「ラズ~おっはよ~」

「ニャァ」

 うっ、挨拶に反応はしてくれたけれど、普通に「ニャァ」としか聴こえない。
 夢の中では話してくれたのになぁ…残念。

 おっと!こうしちゃいられない!朝は時間との闘いなのだ!

 母がテーブルに準備してくれた焼きたての食パンにマーガリンをサッとつけてガブッとかぶりつき、のどが詰まらないようホットミルクを飲んで胃の中へ一気に流し込んだ。

 朝はどうしても時間が足りなくなるから味わえないんだよなぁ。

 全ての支度を済ませ、玄関に向かい急いで靴を履く。
 そこへ母がラズを抱いて見送りに来てくれた。

「よし!じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 自転車を押して日の明かりが差し出した外に出る。

 さぁ!新しい一日の始まりだ! 

 

 

[第一部最終話]

 

 家を出たあとは駅まで自転車、駅から目的の駅までは電車、さらに着いた駅からやしあか動物園までは徒歩、といういつものルートで事務所に着いた。

「おはようございます!久慈さん」

「やあ、紗理っちおはよう」

 久慈さんとの朝の挨拶が、わたしにとっての仕事スイッチのオンになる。

「今日の午前中は掃除と給餌の準備が済んだら事務所に戻らないで、そのまま他の動物を観に行くよ」

 おお!それは初めてのパターン。

「どの動物を観に行くんですか?」

「ハハハ、嬉しそうだねぇ。取り敢えず午前中に観れる範囲だから色々かな」

 そう言えば今日で出勤五日目だけど、働き出してから一度も観て回ったことは無い。楽しみだな~♪

 程なくお決まりの朝礼が始まり、リンさんが園内での注意事項を読み上げ、他は特に連絡事項は無かったらしく、そつなく終わった。

 それから担当動物コーナーに久慈さんと歩いて行き、掃除と給餌の準備などを出来るだけ早く終わらせようと張り切って、予定していた作業時間の大幅な短縮に成功する。

 久慈さんと待ち合わせ場所の小動物コーナー前で合流した。

「ここから事務所方向の動物はちらほら目にしてるだろうから、逆方向に動物を見ながら進んでみようか」

「はい!お願いします!」

 歩いてすぐ猛獣コーナーに着き、ライオンを始めとしてトラ、ヒョウ、チーター、ジャガーなどの有名どころを観たけれど、やはり動画で観るより生の方が迫力があった。

 そこを過ぎると同じネコ科でも小さめの動物が見えてくる。

 ウンピョウ、カラカルオセロットサーバル、ボブキャットなどを順に観て行き、それぞれの顔や身体つきが特徴的で印象に残る動物ばかりだった。

 そして、知らない人はいないであろうゾウ、霊長類にして種類の多いサル、地上で世界一背の高いキリン、絶滅が危惧されるシロクマ、飛べないが泳ぎの得意なペンギン、などを時間に限りあるため足早に観て行く。

 やしあか動物園の規模は思っていたより大きく、動物の種類も豊富でかなり見応えがある。
 
 だから、やしあか動物園の動物たちを全部観たい時は、たっぷりと時間を確保して来るべきだろうなぁ...

 普段は生で観れない動物達が世界中から集まるこの素晴らしいテーマパーク!

 ディズニーランドやUSJなどの人間が造ったテーマパークも素晴らしいけれど、神の創造物である動物達を是非とも多くの人に観て欲しい!
 
 ここにはもっと珍しい妖怪達もいるけどね♪

 わたしは心に決めた!
 このやしあか動物園の仕事をずっとずっと続けて行くことを!

 こうして、やしあか動物園の妖しい日常も、ずっとずっとず~っと続いて行くのだった。

 

 [第一部完]

 

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