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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ67

 可惜夜会心の剣技「月光抜刀牙」は、まず左右に素早く動きながら相手との間合いを縮めて動揺させ、両刀のうち左腕で上から振り下ろす上段斬りが初撃となり、間髪入れず利き腕の右腕による右切り上げの一刀が発動し、相手の身体へ先に到達するは速度に優る二撃目の右切り上げとなる。

 つまり先に眼を引く上段斬りはある意味誘導でありかつて彼と戦った者たちは皆、二撃目の右切り上げで致命傷を与えられ、遅れて来る上段斬りによって確実に命を落とした。

 この正に必殺技と呼ぶに相応しい剣技を、脅威的な動体視力に判断力、そして神速の剣を用いて完封し、とどめに勝負を決める一撃を入れた雪舟丸。

 今後、彼を呼称する際は冗談を仄めかす「居眠り侍」などではなく、「剣聖」や「剣神」といった高尚なものの方がしっくりといくのかも知れない。
 しかし彼がそんなことを聞いても間違いなく興味索然といったところであろうが...

 と、地に膝をついたままの可惜夜がやっとのことで呼吸を取り戻し、苦しそうにしながらも口を開く。
 
「...い、いやぁ...さ、流石に、戦意喪失
してますよぉ...ぼ、僕の完敗です。ど、どうぞ、この首は差し上げます...煮るなり、焼くなり、好きにしてください...」

 彼はそう言って若干震えながら頭を垂れた。
 雪舟丸は彼の首を斬らず、流れるような所作で刀を鞘へ戻す。

「...死に急ぐ言葉をそう易々と吐くでない。俺がお主をわざと殺さなかったのは分かっておろう。可惜夜、千里、だったかな...俺は活きのいい若者は嫌いじゃない。人を褒めるのは苦手だが、お主からは並々ならぬ素質と将来性を感じている。これより先、尚一層剣術の鍛錬に励み強くなれ。そしていつの日かまた真剣勝負をしようぞ」

 彼に剣術の才能があろうがなかろうが、元々芥藻屑の一員でない可惜夜の命を雪舟丸は奪わなかったであろう。
 それに二十歳という若さで己と此処まで渡り合った彼の素質に雪舟丸は一目も二目も置いていた。

「ハハハ...貴方にそこまで言われては強くなるしか選択肢はありませんね...承知しました。いつの日か、今より数段強くなって貴方の前に現れましょう...」

 可惜夜は言い終えると地べたに仰向けとなり寝転び、日が昇り青々とした空を見て呟く。

「今日も良い天気になりそうだ...」

 雪舟丸はその横を黙って通り過ぎ、仙花と蓮左衛門の戦う中央社へと向かった。

 蛇腹の地で起きた新旧天才同士の決闘は、圧倒的実力差を見せつけた雪舟丸の勝利で幕を閉じたのである。

 

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