天才にして天災の僕は時に旅人「仲直り」
家の近くで妹が行きそうな場所の見当はおおよそついていた。
僕がまだ小学生だった頃の話だが、たまに小桜と二人で遊びに行っていた小さな池である。
家から子供の足で徒歩15分、ちょっとした林を抜けた先にその池はあった。
到着したが辺りはいっそう暗くなり、
足元もほぼ見えないくらいになっていた。
密かに自然現象発生能力を意識して発動させる練習をして少しだけ上手くなっていた僕は、大嶽丸の力により掌から一つの火の玉を出現させ灯りの代わりにした。
パッと見える範囲で人影は見当たらい。
池の周囲の一部は土手になっていて、そこには昔造られた防空壕がある。
初めて防空壕を見つけた時、ワクワクとした僕と妹は秘密の部屋にしようと考え、家の庭に平積みされている廃棄寸前の平たい板を持ち込み簡単な床と壁を作ったものだった。
その防空壕へ真っ直ぐ向かう。
程なく着いて火の玉で中を照らすと横になって眠っている妹がいた。
取り敢えずホッと胸を撫でおろす。
傍には読みかけの心理学の本と、灯りの消えたアンティークなランプが置いてある。
小桜の顔を覗き込むと目尻に涙の跡が見えた。
きっと家を飛び出して泣きながら本を読読んでいるうちにいつの間にか眠ってしまったのだろう。
僕は小春の姿を見てやるせない気持ちになった。
肩にそっと手を当てて少し揺らして呼びかける。
「小桜、起きて。お母さんが心配しているよ」
「んん...」
眉間に皺を寄せて起きそうでなかなか起きない。
時間も無いし少し強めでいこう。
「起きろカボチャ頭!」
言葉に反応したのか、大きい声にびっくりしたのかは分からないが「ガバッ」と上体を上げて起きた。
瞼をゴシゴシと擦り、目を開いた妹は僕に気付く。
「あれ、キキ兄どうしたの?」
こちらの台詞だけれど優しく説明する。
「お母さんが小桜がいないって心配してたものだから探しに来たんだよ」
反応が悪い。寝起きでまだ頭がボーッとしているらしい。
「家でキキ兄と話をしたあとここに来て...本を読んでた...そっかもう夜になっちゃったんだね」
「やっと把握してくれたようだな。さ、家に帰ろう」
妹の手を握りゆっくり立ち上がらせた。
「引越しの件だけど、小桜は知っているとものだと思い込んでたんだ。今まで黙っててごめん」
寝ぼけた顔をシャキッとさせて妹が言う。
「明日になったらキキ兄がいなくなるってお母さんから聞いた時は驚いたけど、考えてもどうにもならないだろうしぃ...うん、時間の無駄だからもう良いよ〜許してあげるね」
「時間の無駄」という言葉に引っ掛かったけれど、流石は僕の自慢の妹、頭の切り替えも早い。
仲直りをした僕らは、手を繋いで夜道を歩き家へ帰った。