2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧
椿は眠く重たい目を擦りつつ、先に眠っている梵の布団に入り込み、寄り添うように身体をくっつけたかと思うと、一分もかからず「スースー」と寝息を立てて眠りに着いた。 清兵とトキの二人も、子供達の横に並ぶ敷いていた一つの布団に入り、顔を合わせて囁く…
そのあと、大晦日とあって普段なら家族の全員が寝ている時間であったけれど、不始末村に唯一存在する寺から除夜の鐘の音を家族全員で聴いたものである。 除夜の鐘、その起源は中国の寺院で行われていた風習だと言われており、仏教発祥のインドでは梵鐘の起源…
こうして、緒方家の大晦日の晩餐は今年一番のものとなり、皆が「美味い、美味い」を連発し大いに楽しんだものであった。 食事が終わり、トキが風呂敷に包まれていた新しい着物を子供達に見せる。 「ほら、これが町で仕入れた椿と梵の着物だよ。おっとうとお…
私、語り部の現実世界では忘年会なるものがあり参加したものである。 よって語り部はベロベロに酔った挙げ句、物語を語ることなど不可能であり、このまま布団にくるまって夢の世界へと旅立つ所存でありzzzzz ===============================過去の作品はこ…
そんな親子愛を感じる微笑ましい様を嬉しそうに眺めていたトキが、新鮮な魚の入ったザルを子供達に差し出す。 「椿、梵、今日は町で秋刀魚が手に入ったからご馳走するよぉ。白米もあるからうんとお食べ」 「うわぁ!お魚なんて久しぶりやねぇ!梵はお魚食べ…
結局のところ、清兵とトキの二人はお地蔵様の言うことには応じず、深々と首を垂れたのち不始末村への帰路を再び歩み始めた。 もし此処で二人が人形を捨てさえしていれば、後に起こる惨劇は避けられたのであろうけれど、「たられば」の話しなんぞ一度きりの人…
呪いとは人や霊が物理的手段を用いず、精神や霊的手段によって社会もしくは個人に災いや不幸・不運をもたらそうとする悪意ある行為のことをいう。 つまりは人が目視できない何らかの方法で相手を苦しめようとすることを呪いと呼び、特に人が特定の人間を呪お…
そして、ややお人好しで人柄の良い二人ならば、お地蔵様の警告たる言葉を素直に受け止め、言われた通りに人形を置いて行くと思われたのだが。 「貴重で有難いお地蔵様のお言葉。本来なら謹んでこの人形は手放し、我が家へと帰るところなのですが、あっしらは…
人が人への贈り物をする時の動機は様々あるのだろうけれど、大多数を占める動機とくれば、「受け取る人の喜ぶ姿を目にしたい」といったところではないだろうか。 否、もっと突き詰めれば、人の喜ぶ姿を目にして気持ち良くなる瞬間を味わいたいとといったとこ…
混乱して硬直した二人。 見かねた七体の地蔵の一人が他の者達を叱る。 「お主らが一斉に喋るもんだからこの者どもが混乱しておるではないか。長男であるこの一蔵代表してが喋るからお主らは黙っておれ」 「...........」 どうやらこの七体の地蔵は兄弟であり…
「...まさか、このお地蔵様が喋っておられるのか?」 見通しの良い道の周囲に人の気配は無く、清兵は常識では考えられないと分かっていながらも七体並んでいる石造りの地蔵に視線を落とす。 すると。 「そうだ儂が語りかけておる」 「ちょっと待て、儂にも喋…
冬の夜の訪れは早い。 夕刻に帰路へと着いた清兵とトキは兎角急いだ。 晴れの日であればまだしも、粉雪が降り始めた悪天候とあってはゆっくりなどしてはおられない。 それに家で待っている子供達のことも心配であった。 「エッホ!エッホ!エッホ!」 清兵が…
人形の表情に色々求めるのはのは筋違いなのかも知れないけれど、行商人から受け取った女の人形の顔には、可愛らしさや愛嬌など全くと言っていいほど感じられず、逆に無表情なその顔は冷徹に見え、何処からどう見ても不気味な人形にしか見えなかった。 だが清…
顔色の酷く悪い行商人がニヤリと不気味な笑みを浮かべ、背負っている緑色をした風呂敷を地べたへ広げる。 広げられた風呂敷の上には、人形やコマといった玩具が数点並んでいた。 中でも夫婦の目を惹いたのが黒い長髪の女の人形であった。 この時、その人形に…
二人に声をかけた行商人の男は、風貌こそ「行商人」らしい格好をしてはいたものの、身体の何処かが不調なのか、今にも倒れて逝ってしまうのではないかと思われるほどに顔色が悪い。 「もちろんにございます。ところで、あなた方のお子様は女の子お一人と男の…
暫くのあいだ、二人は仲良く夢中で遊んでいたけれど、弟の梵は遊び疲れと丁度昼寝時とあり、パチパチと音を立てて燃える囲炉裏の火の暖かさの心地良さも手伝って眠りについた。 椿も横たわる弟に添い寝してウトウトとし始め、心安らぎつついつの間にか眠った…
一方、清兵とトキの留守を預かることとなった十歳の椿と五歳の梵は、あまりの寒さから囲炉裏に薪木を焚べ、その傍らでお手玉遊びしていた。 日本でいうところので「お手玉」は、奈良時代に中国から伝わり、当時は手ごろな大きさの小石や水晶を利用したことか…
清兵とトキの目指す隣町の名は「安曇(あど)」。 隣町といっても人が普通に徒歩しても片道で2時間はかかってしまう距離にある。 とはいえ、不始末村で生産業を営むもの達が物を売るとらなれば、安曇の町が最短距離にあり、ある程度の人数が集まる町だから金…
現代においての道路なるものは、アスファルトなどの施された非常に通りやすい道となっているわけだが、江戸時代の道はその昔よりもずっと整備されているとはいえ現代における道路とは雲泥の差があるものだった。 故に木製でしかも最安値の大八車が道を進むに…
特にこの日は、早朝から田畑に霜が降りるほどの低温となっていた。 出発の準備を整えた清兵が、見送りをしようと佇む椿の肩を軽く「ポン」と叩く。 「そんじゃあ椿。おら達が留守の間の家と梵のことは任せたぞ」 長女の椿は未だ幼さの名残りはあるものの、し…
大根飯を頬張っていた小さな梵が、家族のやり取りをなんとなく眺めていたのだが、「着物」という言葉に反応して可愛い声で喋る。 「梵も、梵も欲ちい」 清兵はにんまりと笑い、愛する息子の梵の頭を撫でて言葉をかける。 「もちろんだ梵。おめえにも新しい着…
家族の全員がツギハギだらけの着物を着用していて、何処からどう見ても貧乏な緒方家ではあったが、家族全員が仲睦まじく日々笑顔は絶えなかった。 そんな緒方家が迎えた厳しく寒い大晦日の昼飯時に、愛する家族に少しでも気持ちの良い正月をと思い至った清兵…
この家族。 夫婦ともに日々懸命に働いているのだけれど、費やした労働力と手にする収入が上手くかず、なかなかにして暮らしは楽にはならなかった。 そう、現代においても間違いなく言えることだが、ただ一生懸命に働くだけでは暮らしが楽になろうはずもなく…
現在の島根県に位置する石見国(いわみのくに)は、かつて日本の地方行政区分だった令制国の一つである。 時は仙花が仙女へと覚醒を遂げた頃から三年ほど前のこと、石見国のとある僻地には、誰が付けたか「不始末(ふしま)」と呼ばれる不気味な名の村があっ…
彼女が何気に軽々とやってのけた所業が驚くべきものだったことを真如の顔が如実に現す。 元人間であり、元仙女でもあり、今は堕仙女として生きる真如にとって驚嘆せざるを得ない事象。 そう、真如は仙女へと覚醒して仙術を使いこなすことは叶わず、仙術を具…
「フッフッフッ、どうじゃ儂、凄かろう?」 仙花が出現させた光球を見て呆気に取られていた真如が正気に戻り。 「...う〜む...確かに凄い...否、凄すぎてむしろ怖いくらいじゃ...」 「おっと!待て待て。これくらいで驚いて貰っては困るぞ!もう少しばかり楽…
なんの躊躇いも無く仙女覚醒試練を「楽勝」と言ってのけた彼女の言葉に、問うた真如が目を開き慄く。 「し、試練をら、楽勝とは...仙花お主は一体何者なんじゃ?」 「ん、儂か。儂の名は徳川仙花。それに水戸仙花や刀姫とも呼ばれておるぞ」 二人の会話を聴…
蓮左衛門に促され、流石の仙花も疲労感があったらしく素直に蓮左衛門の横に座り、彼から差し出された焼鳥を一気に口に入れ美味そうにムシャムシャと食べた。 細やかな宴会がいつから始まったのかは定かではないけれど、大酒飲みでくノ一のお銀には敵わぬまで…
こうして、仙花の口車にまんまとがっつり乗ってしまった天心は、彼女に仙術の基礎を体現させながら教えたのだった。 仙術を教える最中に仙花の物覚えの早さと、仙人としての才覚を大いに感じとった彼は勢いにも乗って色々教えようと意気込んだものだったが、…
天心の言葉は至極真っ当でごもっともではあったけれど、仙花の方には得心が無かったようだが... 「分かった!」 「おお!やっと分かってくれたか!よし、ではこの書物を読み込み学ぶが良い」 「いや、書物は読まぬ」 「なんだと!!??」 天心は仙人界での…