orutana2020のブログ

文章を書く上で疑問に思った事や、調べた事を適当に掲載します

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

一輪の廃墟好き 第98話 リアル天国

何はともあれ良いと思うことは直ちに行うべし!とどのつまり善は急げである! 僕は残された時間を考慮し、迷うことなく「ザヴァッ」と音を立てて立ち上がり、軽く飛び上がるようにして外へと移動した。 「さぶっ!!??」 外へ素っ裸で飛び出した途端、まだ…

一輪の廃墟好き 第97話 イエティ

温泉の効能で「育毛改善」なんぞ本当にあり得るのだろうか? 薄毛で悩んでいる人からすれば、きっと試さずにはいられないであろうビックリな表情ではあるが... 冷静になり、近づいて何度か読み直したけれど、やはり「育毛改善」と書いてあることに間違いはな…

一輪の廃墟好き 第96話 効能

水中に半身が沈んだ瞬間、有頂天に飛び込んだ僕は「ハッ!」として目を見開く! 「ブゥオボボッ!?」 温泉の底が予測していたよりも浅かったため、僕は慌てて両の掌でタイル張りの底を叩き直撃を免れた。 「プゥハァッ!!」 水面に顔を出し、大きく息を吐…

一輪の廃墟好き 第95話 はしゃぐ

頑張っても精々5、6人くらいしか入れないであろう窮屈で狭い脱衣所で服を脱ぎ、肩に一枚のタオルを掛けて天然温泉のある浴場の入り口を開ける。 「なっ!?」 浴場へ足を踏み入れようとして僕の足は無意識に止まり絶句した。 井伊影温泉の表から脱衣所まで、…

一輪の廃墟好き 第94話 超人?

何気なく「常人」という言葉をあまり深く考えずに使ってしまったけれど、少しばかり、否、大いに僕とは縁遠く不適当な言葉だったかも知れない。 「常人」なる単語は調べるまでもなく、「特に変わったところのない普通の人」という意味であり、僕がそんな極素…

一輪の廃墟好き 第93話 罪

「よっこらせっ」 最近はあまり耳にすることのなかった掛け声を漏らして、老爺が木製の床に落ちた八恵さんの入歯を拾い上げ、驚くことに自分の首に巻いていたタオルで入歯を拭き始めた。 親切心は理解できるのだが、流石にそれはちょっと引かざるを得ないよ…

一輪の廃墟好き 第92話 衝撃的

「事故との遭遇」直前とでも言うべきだろうか、僕の優秀な頭脳と極一般的な心臓を単純に嫌な予感が走り、横にいた未桜を制止しようと動いたのだけれど、時すでに遅し、彼女は番台で気持ち良さげに眠る老婆の隣まで素早く近づいた。 そして、嫌な方向で予想が…

一輪の廃墟好き 第91話 番台に座る老婆

そんな馬鹿みたいな僕の様子を、不思議そうな顔で下から覗き込むように眺めている未桜。 まずい、何か感づかれたかも知れない。 「ねぇねぇ、こんなところで立ち止まってないでサッサと中に入ろうよぉ。時間もあんまりないんだしぃ」 OKOK、全然セーフだ。 …

一輪の廃墟好き 第90話 好み

民宿むらやどの若女将(仮)さんが言っていた通り、天然温泉の在るという施設へは徒歩で丁度5分ほどで着くことが出来た。 手前勝手ながら「温泉センター」のようなある程度は大規模な施設を想像していたのだけれど、辺境の地と云っても差し支えないであろう…

一輪の廃墟好き 第89話 天然温泉

「あっ、いえ、たまたまお婆ぁ...」 「おっとぉ!何でもないんです~!それより夕飯をいただく前にお風呂に入りたいんですけど大丈夫でしょうかぁ?♪」 未桜、なぜ僕の説明を妨げる!? まぁいいさ、僕も濡れて汚れてしまった身体で料理をいただくよりも、風…

一輪の廃墟好き 第88話 女将

「は~い、只今~」 廊下先の奥の部屋、当たり前だが確認したこともないので断定は出来ないけれど、恐らくは台所だと僕は想像している。 そこから聞こえた声は、午前中に初めて訪れた際に迎えてくれた老婆のものではなく、少しばかり若めの女性の声だった。 …

一輪の廃墟好き 第87話 星空

森を抜け平坦で整った道に差し掛かった時には、辺りはすっかり暗くなり、完全なる夜の様相を呈していた。 「一輪、上を見てみて、すっごく綺麗な星空になってるよぉ♪」 ついさっきまで、乙女の恥じらいなど何処ぞに捨てて来たのではなかろうか?などと思わせ…

一輪の廃墟好き 第86話 日頃の鍛錬

そう、淀鴛さんのご先祖様である老婆の霊から幸運にも得られた超貴重な情報...あの30年前に起きた淀鴛家にとって大きな災いとなった事件が、自殺ではなく他殺の可能性が出て来たことに加え、犯人は井伊影村の住人であるかも知れないということ... 老婆の霊が…

一輪か廃墟好き 第85話 森を駆ける

テレビのニュースで流れていたお天気お姉さんの言葉を信じ、愚かにも雨具に関しては一切の準備をいていなかった僕達は、雨に濡れて重くなった服を着たまま、事件の所為で廃墟と化してしまった燈明神社をあとにした。 「未桜!地面がぬかるんでるから足下に注…

一輪の廃墟好き 第84話 たられば

たらればの話しをしても仕方がないのはわかっちゃいるが、生きて普通に生活していれば選択肢がとめどなく現れるわけで、僕達は奇しくもそんな世界の住人なのだから、「たられば」の話を持ち出してしまうことは人として当然の行為であろう。 故にもしも、老婆…

一輪の廃墟好き 第83話 頷く

さらに質問を続けていると、最も欲しかった情報、つまりは30年前に淀鴛家で起きてしまった悲惨な事件の一角に迫ることができたのである。 それは30年前の事件当時、警察の調べでは「自殺」だと断定されたのだったが、この老婆の霊は、「30年前に若い夫婦は自…

一輪の廃墟好き 第82話 馴化

そのことに気づいてからは、老婆の霊に直接話しかけるのをやめて、知りたい情報は未桜を通して訊くことにした。 「慣れは怖い」、人が日常においてたまに口にする言葉であるけれど、僕はそれを今まさに実感していた。 と言うのも、この老婆の霊は人生で初め…

一輪の廃墟好き 第81話 沈黙

ごく普通に現実的な考え方からすれば、幽霊と会話をするためには生存している僕達は良いとして、命を落としこの世の者で無い幽霊側が人間と同じ、もしくは人間に近い声帯らしきものを持っていなければならない。 いや待て、身体の構造などというものを持ち出…

一輪の廃墟好き 第80話 予想外

「...大丈夫だいじょうぶ。きっとあの霊は悪い霊じゃない。根拠は無いけれどそんな気がするの...」 仕方なく付いていくことにした僕に対し、歩みを止めぬ未桜が振り返らずにそう言い切った。 「頼むから霊の怒りを買うような真似はしないでくれよ」 「そんな…

一輪の廃墟好き 第79話 老婆の霊

この人魂は最初墓石の横に浮いていたのだが、どうやら墓石の周囲をゆっくりと時計回りに移動しているようだ。 棒立ちして墓石の方をジッと眺めている未桜に問う。 「時に助手よ。僕には墓石のところに人魂なるものが視えているのだけれど、やはり君には人の…

一輪の廃墟好き 第78話 二度目

人魂に関してはかなり古くから書物に登場したり目撃情報やらがあるけれど、19世紀末、イギリスの民俗学者の一説によれば、「戦前の葬儀は土葬であったため、遺体から抜け出したリンが雨の日の夜に雨水と反応して光る現象は一般的であり、庶民に科学的知識が…

一輪の廃墟好き 第77話 人魂

初めて目にする不思議で不気味な光景前にして、呆然と思考の停止した僕の身体は一時のあいだ硬直していた。 船体と海の波が衝突して弾けた波飛沫が顔に当たり、その冷たさにハッと我にかえった僕は、船の舵をとる祖父の元へ駆け寄り、水上に浮き青白い光を放…

一輪の廃墟好き 第76話 夜の海

船のエンジンが復活して動いてくれたのは良かったけれど、祖父に言わせればどうやら本調子には程遠く、速度が上がらずなかなかのロースピードで船は進んで行く。 おまけに辺りは暗くなる一方だというのに、船の電灯も故障して使えないままという有り様だった…

一輪の廃墟好き 番外編その9

探偵稼業という特殊な事業を営んでいる僕には、定休日といった概念は特に無い。 しかし日本人全体の割合からすれば、土日が休みで月曜が仕事初めという方が多いことだろう。 深く考えずとも察するに、明日のことを想うと憂鬱になっている方もきっと多いに違…

一輪の廃墟好き 第75話 水平線

「一、すまんけどちょっと座って待っとってくれんか」、祖父はそう言って船の狭いエンジンルームに入り故障箇所を探し始めた。 僕は一抹の不安を感じながら船の端に腰を下ろして夕陽を眺める。 上手くいけば長くなるであろう人生において、夕陽が沈んでいく…

一輪の廃墟好き 第74話 大漁

祖父は年齢的に考え僕にはまだ早すぎると踏んだのか、鰤や鯛といった大物ではなく、小学三年生でも楽しんで釣りのできる小ぶりで手頃な獲物の泳ぐポイントへ船を動かしてくれた。 祖父にとって赤ん坊の頃から生活している離島周囲の海は、隅々まで知り尽くし…

一輪の廃墟好き 第73話 超大物

小学3年生になり平均的体重だった僕の身体が一気に持っていかれそなほど引きが強い! 「ピン!」と張った釣り糸が握る手の指に喰い込む。 もし軍手を装着していなければ恐らく指の肉は切れていたかも知れない。 「爺ちゃん!やばいっ!!」、僕は突如として…

一輪の廃墟好き 第72話 真鯛

「底についたら糸を少し巻かんといかんぞ」と、祖父が歳の所為で細くなった目を僕に向けアドバイスしてくれる。 それを僕は素直に受け入れ釣り糸を軽く巻き、続けて垂らした釣り糸をクイクイッとするように言われ、「手釣り」と呼ばれる手法の釣りが始まった…

一輪の廃墟好き 番外編その8

この番外編では「死」や「時間」がキーワードになることが多い。 得手して繰り返すわけではないけれど、確実に分かっていても普段意識されないのが「人生は有限」であるという悲しい事実だ。 そこで良くも悪くも多用される一つの言葉、余り良いイメージのな…

一輪の廃墟好き 第71話 釣り道具

祖父の運転する船は、港が小さくなり、やがて見えなくなるほど遠方の沖合いでまで進んだところで停船すると祖父がキーを逆に回し、なかなかにうるさかったエンジンが止まって静かになった。 パノラマな空間の上方に雲は多かったけれど、幸にして青空の垣間見…