2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧
城太郎が握っていた右拳を目の前で開くいた掌には、まるで蛍のように光を放つ小さな虫が動かずじっとしたまま乗っていた。 霊蟲の大きさは蛍とほぼほぼ変わらないけれど、放つ光は青白く、霊蟲本体そのものもす青白く透けており、その姿は幻想的で美しい飾り…
落ち着きを取り戻した彼女は横に首を回し、隣で寝ていた筈の城太郎の姿が消えていることに気づき。 「あら?廁(かわや)にでも行ったのかしら...」 部屋を見回すが城太郎の姿は無い。 暫く経っても現れないものだから、真如は心配になり立ち上がろうとした…
睡眠する最中、人が時折見る夢は良くも悪くも様々である。 真如はその夜、身に危険の及ぶ恐ろしい悪夢に魘され、何者かが大釜を振り回して我が身が真っ二つに両断された瞬間、ガバッと上半身を起こして目を覚ました。 額や首に流れる嫌な冷や汗を手で拭った…
はてさて... 実の父であり、魔界の頂点に君臨する三大魔王の羅賦麻が、老仙人の雅綾と府刹那との激闘を終え魔界に戻った頃、息子の亜孔雀は仙女の聖天座真如と暮らす住居で呑気に昼寝をして彼女の帰りを待った。 無論、悪魔である亜孔雀の姿などではなく、人…
雅綾と府刹那に肉親と呼べる血の繋がった者は存在しなかったがゆえに、心の打ち解けた幼い雲峡はたいそう可愛がられたものである。 しかも雲峡の仙術の師匠はまごうことなく彼らであり、二人の存在無くして今現在の雲峡の強さは無かったとすらいえよう... 羅…
雲峡がそれとなく口にした天仙竺十権とは、仙人界において仙力や知力などが総合的に評価され、厳選された実力者で束ねられた仙王を除けば仙人界の頂点とも云える組織である。 勿論、仙人界において一、ニを争うほどの実力を持つ雲峡も天仙竺十権への誘いを受…
普段の府刹那からは想像できぬ、か細く弱り切った声で呟く側へ、歩み寄った羅賦麻が腰を屈め倒れる老仙人の目をじっと睨む。 「貴様ら二人から仙人界の情報を聞き出したいところだったが、オレにはもはや時間的にも体力にも余力は無い。悪いが貴様を生かして…
「っ!!??」 「ボォン!!!」 攻撃の初動に入っていた府刹那は奇襲に気付いたものの、至近距離かつ想定外の反撃がカウンターとなり、胸元へまともにきつい攻撃を受けてしまった! 府刹那の身体は宙へと浮かび後方へ吹き飛ばされ、殊の外ダメージが大きか…
「ガズゥン!!!」 頭から真っ逆さまに落ちた府刹那が、仙器の天祥棍を倒れる羅賦麻の心臓部を狙い突き刺した! 天祥棍は魔王の超硬度を誇る身体を易々と貫通して地面に到達している。 府刹那が天祥棍を引き抜き、ヒクヒクと痙攣を起こす羅賦麻の背中を両足…
天祥棍が直撃した羅賦麻の胸元が粉々に砕け、府刹那特有の反発仙術の性質と威力によって直線的に吹き飛ばす! だが折角の破壊力が敵の身体を吹き飛ばす分だけ逃してしまうこの技。無論、そんなことは百も承知の府刹那は、吹き飛ばした敵を自慢の脚でもって追…
「...く、口惜しい、のう...あとは、任せたぞ...府刹那.............」 雅綾は悔しそうにそう言い残し、千年以上を生きた人生の終結を迎えた。 十世紀以上もの長いあいだ生きるということは、普通の人間からすれば極めて想像し難かったけれど、実のところ仙…
羅賦麻の周囲は瞬く間に月のクレーターを彷彿とさせる景観へと様変わりしてしまった。 「やっちまったなぁ...雅綾爺...だがこれで勝ったやも知れぬ...」 仙術の力を溜め込み戦況を注視していた府刹那は寂しげにそう呟いた。 しかし、府刹那の絶望と希望の入…
雅綾が己が身を捨ててまで仙術を繰り出す理由は大きく分けて二つある。 長年の友である雅綾の命を絶対に守り抜くことが一つ。 もう一つは、魔界三大魔王の羅賦麻とその息子の亜孔雀の企みを封じることにあった。 無論、仙人界で毎日ただひたすら将棋を打って…
「....雅綾爺...」 雅綾の覚悟の言葉を受けた府刹那が何か言おうとして止め、一考した老仙人は雅綾に聴こえるかどうかという大きさの声で言う。 「お主が倒れたあとのことは任せておけ」 府刹那は何百年と付き合ってきた雅綾のそばを離れ、羅賦麻を押し潰そ…
強力な百倍重力の領域に羅賦麻を見事封じ込め、そのままの勢いで敵の身体を押し潰そうとする雅綾。 苦しむ羅賦麻の様子からして雅綾の思惑は上手くいっているようにも見えるが、果たして、本当に重力仙術だけで三大魔王の一人を押し切ってしまえるのか、攻撃…
重力とは、地球上で物体が地面に近寄っていく現象や、それを引き起こすとされる「力」。人々が日々、物を持った時に感じているいわゆる「重さ」を作り出す原因となる力。 物体が他の物体に引きよせられる現象。およびその「力」。 厳密には、地球との間に働…
その凄まじい闘気を目の当たりにした二人の老仙人が意識せずとも息を呑む。 「ほえぇぇ、こりゃぁ、たまげたわい。息子の方も大したもんじゃったが、どう見積もっても比較にもならん」 「じゃな。最初から全力で飛ばさねばあっという間にやられてしまいそう…
不愉快そうに羅賦麻が老仙人の二人を睨む。 「おい!老いぼれ仙人ども!可笑しそうに何をコソコソと話してやがる。この羅賦麻を前にして結構な余裕ぶりじゃないか?」 「...カッカッカッ。そうかい、お主には儂らが愉快気に見えたのかい。カッカッカッそうか…
などと心の片隅にて切に、切に想うのですけれど、流石に本筋物語の中での枝分かれした物語を語る最中、更に別の物語を語るは愚の骨頂と云わざるを得ませぬゆえ、ここは自粛して『堕仙女』の話しを続けることと致しましょう... 「グァッグァッグァッ!老仙人…
肩に仙器の天祥棍を乗せ、とぼけた風の府刹那が問う。 「まさかとは思うがお主、魔界で恐れられているあの三大魔王の一人、『咆哮の羅賦麻(らふま)』ではあるまいのう?」 亜孔雀の父親が問いかけた老仙人に視線を向けニヤリと笑う。 「ほう、これはおもし…
不意な攻撃を受けた府刹那が吹き飛ばされながらも波動の軌道を辿り、攻撃した当人を睨みつけ、ほぼ同時に雅綾と亜孔雀も素早く視線を向けた。 中でも亜孔雀に関しては攻撃した主を見た瞬間、表情の分かり辛い顔が強張り明らかなる動揺の色が見え。 「ちっ!…
亜孔雀が最初に狙った相手は扱う仙術のタイプから鑑み、攻め易しと判断した重力の仙術使いである雅綾の方であった。 この判断が正しかったかどうかは直後の展開で判明する。 「うらぁっ!!!!」 驚愕の速さで間を詰めた亜孔雀が渾身の初撃をくれてやろうと…
余裕綽々とはいかないまでも、戦闘を楽しむかのような表情を見せる雅綾と府刹那なの二人。 それもそのはず、亜孔雀が破壊された身体の一部を修復したとはいえ、少なくとも先手必勝の技はダメージを与えているのだから... 「んじゃぁ、今度はこっちの番だな。…
千年を生きた仙人である雅綾の言った言葉には重みがあり過ぎる。 仙人には大まかに分けて武闘派と知性派の二種のタイプがあり、将棋をこよなく愛する雅綾と府刹那の二人は一見して知性派だと勘違いされるが、何を隠そうこの二人はバリバリの武闘派なのである…
時代背景に相応しくない表現かもしれないが、否、絶対に相応しくない表現に違いないけれど、怪異にして悪魔の若造亜孔雀はビリヤードのキューに突かれたように弾き飛ばされたのである。 その光景は速さは凄まじいものの軽く弾かれたように見え、さほどダメー…
自然、というより地球という星の力である重力に当たり前だが色など着いてはいない。 だが雅綾の繰り出した重力の仙術には不思議と色が備わっている。 その証拠に亜孔雀の頭上には漆黒の重力らしき霧が浮かび上がり、漆黒の霧はまるで生き物の如く真下の亜孔…
「グァグァグァ。すまんな爺ども!俺は貴様らに比べれば赤子のような年齢だ。なんせ魔界でに生誕して百年ほどしか経っていないんだからな!グァグァグァ...いいだろう。名を覚えてもらっても無駄でしかあるまいが教えてやる。この世と繋がる魔界より現れし俺…
「我が名は翠重架雅綾(すいじゅうかがりょう)!」 「我が名は怒涛混府刹那(どとうこんふせつな)!」 上手い下手は別として、こよなく将棋を愛する老仙人の二人が意気揚々と名乗り出た。 先に名乗った翠重架雅綾の手に持つ専用武器は、目に見えぬ空間の重…
意気のいい老仙人の二人が亜孔雀を睨みつけ、各々の武器を取り出し戦闘体勢に入る。 二人の老仙人はここまでの亜孔雀の様子から鑑み、完全に自分達、否、仙人界全体の敵であると判断したのだ。 いつものように将棋をしていた筈の二人がなぜ湖に居るのか不思…
確かに身体の一部を噛み砕かれ、水中でたちどころに拡散したのは城太郎の血であった。 だが犠牲者になった彼の姿は見当たらず、あるのは悪魔であり怪異の亜孔雀が人喰い魚のザンギを再起不能にする姿であった。 亜孔雀はザンギの命を失い動かなくなった巨体…