2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧
霊感の強い未桜が目撃したであろう何かは取り敢えず放っておくとして、やっとこさ廃墟探索の始まりである。 っと、その前に一つだけ云っておかねばなるまい。 廃墟探索というものは基本的に、というか99%以上は人が利用していた建造物であろうと思われ、その…
淀鴛さんの願いが僕の予測の範疇を超えて来なかったことに少しばかり安堵した。 というか30年前かの事件の話しが聞いた通り事実だとすれば、時間の許す限り協力したい気持ちもあったくらいである。 「淀鴛さん、お安い御用です。何か気付いたことがあれば伝…
淀鴛さんは煙草を吸って落ち着いたのか、お得意のニヒルな笑みを浮かべてそう言った。 しかし淀鴛さんの話しだけを訊けば、確かに犯人についてのフラグ云々は無かったようだったけれど、最後のシーンを分析する限り、どう考えても他殺だったとしか考えられな…
悪臭を放ちながら燃え盛る炎から離れ、井戸水を汲み上げようと手動式ポンプの取手をグッと握りる。 鉄製の取手を握った手を通して身も凍るような冷たさが全身を襲う。 併せて冬の夜の冷気に包まれた幼い俺の頭は少しだけ冷静さを取り戻した。 だが下手に思考…
僅かだが異臭の中に焦げ臭さを感じた幼い俺は、物が焼ける時の匂いだという考えに至り、家の中で火を起こす場所をイメージする。 と言っても家の中で火を起こすとなるとかなり限定され、台所は家を出る前に確かめ、居間に置いてあるストーブは灯油が切れてい…
幼い頃の俺は夜の9時くらいに就寝するのが通例で、この日も確かそれくらいの時刻に就寝したと思われる。 俺は居間から寝室に入り、3つ並んでいる布団の左端が父で、真ん中が右端と決まっていた。 いつだったか母から訊いた話しでは、俺が寝たあと暫くは夫婦…
だが俺は両親の人柄や人格などについてそう詳しく知らないし覚えてはいない。 共に過ごした期間が極端に短かかったし、年齢的に同レベルでの会話も成立していなかったからだ。 当然記憶に残る範囲でしか言いようがないのだけれど、奇特にも都会からど田舎で…
俺は目をガンと見開き、自身の周囲や森の方まで確かめたのだが、人影はおろか動物一匹見当たらなかった。 誰にでも一度はあるであろう人が視線を感じるという現象は、存在自体が不透明な第六感の話しは別として、人の目を気にしすぎる自意識過剰が主な原因な…
無論、俺が幼かった時代にも機械技術駆使した遊園地なるテーマパークは存在していたが、井伊影村にそのような大それたテーマパークが在るわけもなく、テレビに映る遊園地などをたまに目にして知っていた程度である。 だが俺は、テレビに映る華やかで賑やかな…
5歳の頃の俺がそのようなことに興味がある筈もなく、神社に訪れる人々に対しては、俺と父母との遊ぶ時間を奪う嫌な大人たちがまた来た、くらいにしか思っていなかったような気がする。 来訪者あってこそ燈明神社の存続させることができ、淀鴛家のプライベー…
久々に子宝神社を訪れたのだから、折角とだ、日本における出生率(しゅっしょうりつ)について俺なりの考えを言わせてもらおう。 丙午(ひのえうま)の年に生まれた女は夫を喰らうだの、殺すだのという古い迷信から、1.58という極端に低い出生率だったのが昭…
俺、淀鴛龍樹(よどおしたつき)が5歳になったとある寒い冬の日、その壮絶さゆえに一生忘れられないであろう事件が起こる... 過去の壮絶な事件を語る前に、ワンクッションというか一つだけ言い訳でに近い断りを入れておく。 人の記憶の発達というものには当…
「君は頭が良くて物分かりも良いな。こちらとしては君が馬鹿じゃなくてホッとしているところだよ。それはさておき二つ目の頼みってのは、氏名を始めとした俺に関する情報の一切を村の人々には内緒にして欲しい。と言っても俺のことを話す機会なんぞそうそう…
実家!?だって!?...マジか... もし淀鴛さんの言ったことが真実だろしたら、廃墟探索だと軽々しく言う僕と一体どのような感情で接しているのだろうか。 少し怖い気がする... 「実家って、まさか淀鴛さんは以前この燈明神社に住んでたってことですか?」 「…
事務所の仕事部屋より遥かに狭いが詠春拳の鍛錬を行える別部屋があり、そこには映画でもお馴染みの自家製木人を置いていて、僕はただひたすらに無心で木人に向かって拳を奮っていたのである。 だが未桜と決定的に違うところは実践経験が何一つ無く、果たして…
自己紹介するのに踊り出るは変かも知れないけれど、とにかく助手の未桜が僕と男の間に踊り出た。 「はいは~い♪一輪が遅いのでわたしから言っちゃいますね~♪鈴村未桜23歳こちらの助手やらせてもらってま~す♪よろしくね♪おじ様~♪」 音符の数が多すぎるし「…
「刑事さん、見立て通りってなんですか?」 湧き上がる苛立ちを一呼吸入れて抑えた僕は、彼のことを敢えて「刑事」と呼び、なんの罠も仕掛けずストレートに訊いた。 変化球ではなくどストレートで質問した理由、それは男がスマホ画像の警察手帳を見せた真意…
男の視線が僕と未桜の顔を瞬時に流れる。 「ああ...そうだ。さっき村のラーメン屋に入って来た人達だね?」 「えっ!?」 僕は男の言葉に合点がいかなかったので思わず声に出してしまった。 昼食を摂ろうとラーメン屋の戸を僕が開け、ガラガラと大きな音が鳴…
「どっちもだよ、一輪。何が原因かはまだ分からないけれど、この鎮守の森にはいや~な気が流れてる......それと、本殿の前に先客が居るみたい...」 先客!? こんな辺鄙な場所にか!? しかし僕も目は悪くはないが本殿はまだ豆粒ほどの大きさでしか目には映…
漢字で「豆苗」ではなく「燈明」。 音で聴くなら全く同じ名称として捉えることも出来るのだが、神額に彫られた「燈明神社」の四文字を目の当たりにすると、不思議というか当たり前というかイメージかなり異なってしまう。 これは自慢ではく、否、結局はどう…
一旦落ち着き、YouTubeと小型カメラの話しはこの辺で切り上げ、メインディッシュの廃墟たる豆苗神社の探索に集中しようと思う。 鳥居は片方の柱が荒々しく真っ二つに折れ、通常なら平行に並んでいる最上段の笠木とその下の貫(ぬき)と呼ばれる部位が斜め45…
豆苗神社へはもはや手の届く距離まで近づいたが、ここで少々僕達の環境というか状況を説明しておかねばならない。 僕が探偵の他に副業として、顔出しNGでやっているYouTuberなのは周知の実事だろう。 実は今回の廃墟探索でも民宿に着いた時点からずっとカメ…
「おっと~!?本当に借りちゃって良いのかなぁ!?あとで待ってる落とし穴とかない?それにそれにこれって、一輪にがいざって時のために持ってきたものなんでしょ?」 ズボンを受け取った未桜が途方もなく驚いた表情を浮かべた。 しかしそんなに僕の厚意は…
春の陽気を演出していた太陽の光が雲によって遮られ、森の中は若干薄暗く見通しが悪いように思える。 辺りには鳥の鳴き声や、木々に生える葉っぱがサワサワと揺れ重なる音、僕達が歩き枯れ枝や枯れ葉を踏んだ時の音、などなどが聴こえるけれど、都会での日常…
僕に備わる特殊能力の説明の中で「物体」という単語を使用したけれど、少しばかり掘り下げて説明しなければならない。 一般的にいうところの「物体」の意味は具体的な形を持って空間に存するもの、物理学では、物質が集まって空間的な広がり(形体)を成して…
帽子の行き先を追い空を見上げると、太陽の光で満たされていた青色の空間が灰色の雲の所為でほとんど色を失っていた。 フワフワと空を飛んでいればまるでUFOのような未桜の帽子、ボーラーハット。 ものの十数秒であっという間に遠くまで風に流され見えなくな…
気の良い老夫婦が乗る耕運機を、僕達は視界から消えるまで見送った。 耕運機のけたたましいエンジン音が無くなり、静けさを取り戻した僕達の周囲に、森の奥から「ホー、ホケキョ♪」と鶯(うぐいす)の美しい鳴き声が響き渡る... 「鶯の鳴き声って綺麗だねぇ.…
あわよくばそのまま過ぎ去って欲しかったのだけれど、大方の予想通りお爺さんの運転する耕運機は僕達の目の前で狙い澄ましたかのようにピタリと止まった。 ハンドルを握り耕運機に跨ったまま、麦わら帽子を被った皺くちゃ顔のお爺さんが訝しげに目を細める。…
貞子のことはしばし忘れるとして、何度でも云ってしまうけれど、目的の廃墟である豆苗神社は井伊影村の森の奥に位置する。 従って舗装された村の根幹たる道路を幾ら歩いても辿り着くとは決してない。 SNSの画像とストリートビューを閲覧し、根幹たる道路の横…
「二個で132円になります~」 彼女は極々普通の接客をしてくれたのだけれど、僕は勝手に湧き起こった恐怖心から「ビクッ!」と身を退いてしまった。 「あら!やっぱり驚いちゃいましたぁ~?♪お客さんわたしね。映画の『貞子』に似てるって村でも評判なのよ…