orutana2020のブログ

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少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語 2〜4話

[母は強し?]

 

 次の日の朝、キッチンで僕が食パンを食べ、タマとムギがキャットフードを食べているところへ、母が病院から帰って来た。

 

 母がキッチンまで入って来て僕たちに気付く。

 

「良かった、ちゃんと朝ご飯食べてたのね」

 

 どうやら僕たちの朝ご飯を心配していたようだ。

 

「母さんは病院に居なくて良かったの?」

 

「父さんがもう心配は要らないから家に帰って良いって言うものだから帰って来たの...よ!?」

 

「そうだった...ん!?」

 

 母が何かを見て固まっている。

 

 母の視線の先には人間モードのタマとムギが例の格好で立っていたのだ。

 

「母さんお帰りーーー!」

 

「母さん、お帰りなさい」

 

「た、ただいま...」

 

 母さんはタマとムギと挨拶を交わしたものの、頭の整理が追いつかずまだ固まっている。

 

 仕方がないので僕があいだに入って説明する。

 

「もう驚いてるから驚かないでと言うのは無理があるけれど、この二人はうちのタマとムギだよ母さん」

 

「タマとムギ?」

 

 母の反応は僕が昨日体験済みなので良く分かる。

 

「ボクがタマだよー!」

 

「わたしがムギ...」

 

 金縛りにかかったかのように固まっていた母の顔が徐々に緩む。

 

「あなたがタマで、あなたがムギ?まあ!なんてかわいいの〜!」

 

 そう言って二人に飛びつくように近づき熱いハグをした。

 

 超能力者の息子を持つ母にはこのくらいのサプライズは何でも無かったようである。

 

「二人ともついてらっしゃい。貴方たちに合う服を探すわよ」

 

 母は二人を連れて2階の物置部屋へ行った。

 

 僕は3人が服を探している間に朝食を済ませ、片付けまでして2階の自分の部屋へ戻りマンガを読み始めた。

 

「バーン!」

 

 タマが昨日と同じく派手にドアを開けて入って来る。

 今度ドアを開ける時のマナーを教えよう。

 

「見て天馬〜!母さんの超お古だー!似合うか?」

 

「ああ、似合ってるよ。良かったなタマ」

 

 僕としてはどんな服でも良いから着衣姿が有り難かった。

 

 予想通りムギも後からやって来た。

 

 タマと違い控えめなムギは心配そうな顔で訊く。

 

「どうかな?わたしに似合ってるかな〜?」

 僕はその姿を見て正直な感想を述べた。

 

「ムギは何着ても似合うと思うけど、その服は特に似合ってるよ」

 

 ムギは少し顔を赤らめ照れ臭そうにしていた。

 

 そこへ母さんがひょっこり顔を出して言う。

 

「今から娘たちと一緒に新しい服や下着を買って来るわね」

 

「!?ちょっと待って母さん!尻尾は服で隠れてるけど耳を何とかしないと!」

 

 やり取りを見ていたタマが言う。

 

「天馬〜それは大丈夫!ちょっと見てて」

 

 タマが自分の頭を指差し跳び出ている耳を「ヒョイ!」っと見えなくした。

 

「な!これなら安心だろ!」

 

「何だそんな事も出来るなら余計な心配だったな」

 

 こうして母とタマとムギは買い物に出掛けて行ったのだった。

 

 

 

古書店で働くタマとムギ]

 

 僕が馬鹿の一つ覚えのようにひたすら部屋でマンガを読んでいると、母とタマとムギが昼過ぎには帰って来た。

 

 1階に降りて居間に居る3人の様子を覗く。

 買った服を広げて親子のように楽しそうにしていた。

 

 父から何年か前に聞いた話し。

 結婚当初の子供好きな父と母は、子供を最低でも3人は欲しかったのだけれど、残念ながら僕が生まれたあとは子供に恵まれなかったのだと云う。

 

 そんな経緯のある母だからこそ、タマとムギの人間に化けた姿を受け入れられたのかも知れない。

 

 この日以降、タマとムギは人間の姿をしている割合の方が圧倒的に多くなり、猫の姿の方が珍しくなっていった。

 

 事前に母から聞いていたのか、父が退院してタマとムギの人間モードを初めて見ても余り驚かず、すぐに解け込み実の娘と変わらぬように可愛がったものである。

 

 僕が高校に通うようになると、タマとムギは父の代わりに古書店で働くようになった。

 以前から日中は古書店に居た二人は、父の仕事を観察していたお陰ですぐに仕事をこなせるようになったのである。

 

 二人が古書店で働き任せられるようになると、父は前々からやりたかったネット関係の仕事を自宅でするようになった。

 

 因みに母は図書館司書の資格を活かして図書館のパート勤めをしている。

 

 つまり家族で僕以外はみんな働いていたのだけれど、僕は学生なのだからそんなことを気にしてもしょうがない。

 

 タマとムギが任された古書店は高校の通学路にあり、帰りに立ち寄り二人の様子を見るのが日課となっていた。

 

 今日も学校の帰りに二人の様子を見に行くと...

 

 タマはカウンターで鼻風船を出しながら寝ていて、ムギは汗をかきながらせっせと本を整理していた。

 

 これは教育的指導が必要だな...

 

「タマーッ!起きろーっ!」

 

「パチン!ひゃっ!?」

 

 僕が大声を出すとタマの鼻風船が割れ、授業中に起こされる生徒のようにビクッと起きた。

 

「ムギが汗をかきながら仕事を頑張ってるのに昼寝とは呑気なもんだな!?」

 

「......?」

 

 寝起きで僕の言うことが理解できないのか、タマはキョトンとしている。

 

 僕の大声に気付き、あたふたしながらムギが話す。

 

「違うの違うの!タマはちょっと前まで接客してたの!やっと昼ご飯を食べて昼寝してただけ!」

 

「なに!?」

 

 やばい...恐る恐るタマの方を振り向くと、タマの後ろに魔王の影が見えゴゴゴゴ!と聴こえそうなほど怒っているのが分かった。

 

「当然だが早とちりした僕が100%悪かった!」

 

「んーにゃ!許さん!ボクの希少な昼寝時間を妨げた罪は深いのだーっ!」

 

 普通に謝っても無理だ...こうなったらアレで釣るしかない!

 

「OK、OK。タマよ。今度カマンベールチーズをたっぷり奢ってやるからそれで手を打たないか?」

 

 僕がゲス顔で切り札を出すと...

 

「カ、カマンベールチーズーッ!?約束だぞ〜天馬っ!」

 

 チョロい!チョロすぎるぜタマ!

 

 だがこの切り札はサイフにダメージの大きい諸刃の剣だった。

 

 

[化けた姿を見破る]

 

「で、古書店でそんなに長く接客するなんてことは余りない話だけど、どんなお客さんだったんだ?」

 

 古書店に限らず、普通の本屋でも店員を長時間捉まえる客はいないだろう。

 

 僕はその点が気になりタマに訊いたのだった。

 

「白いスーツを着た紳士的で若い男の人だった。人間と妖怪について書かれてる本に興味があったみたいだけど、あれやこれや注文が多くて参ったよ」

 

 最近は心理学絡みの本も世に多く出版されているので人間の方は分かる。

 

 偏見かも知れないが今時妖怪について書かれた本に興味を示す人は珍しいのではなかろうか。

 

「あ、でも顔はスラッとした格好良い人間だったな~」

 

 その言葉に反応したムギが口を出す。

 

「なにを言ってるのタマ。あのお客さんは妖怪だよ」

 

「え!?」

 

「ん!?」

 

 ムギの言葉に僕とタマは軽く驚いた。

 

「ボクには人間にしか見えなかったけど、ムギには妖怪に見えたってこと?」

 

「タマは分かってて接してるのだと思ってた。わたしには人間の姿の表面に妖怪の姿が薄っすらと浮かんで見えるのよ」

 

 ムギの猫又としての特殊能力なのだろうか…

 

「え~!ムギだけ見えてなんだかずるいな~」

 

「双子の猫又でもわたしとタマでは違うんだよきっと。それにタマはわたしよりずっと身体が強いじゃない」

 

「ん、まあそれはそうだけど腑に落ちないなぁ」

 

「あ、因みに今そこに立ってるお婆さんは砂かけばばあさんだよ」

 

 ムギがそう言うと「ギクッ!」というような音が聴こえたような気がした。

 

 本を立ち読みしていたお婆さんにタマが話し掛ける。

 

「お婆さんは妖怪の砂かけばばあなのか?」

 

 話し掛けられたお婆さんが本を置いてこちらを振り向き叫ぶ!

 

「なんで分かったのじゃ!?うりゃーっ!」

 

 砂かけばばあは手に持ったザルにたっぷりと盛られた砂を掴んで投げてきた!

 

「うわっ!?」

 

「なんだ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 顔に当たったが普通の砂だった。

 

 僕は真顔で砂かけばばあに言う。

 

「あの、掃除が大変なんでもう止めてもらっていいですか?」

 

 僕の言葉に砂かけばばあの手が止まる。

 

「妖怪と見破られて驚きの余りつい投げてしまったんじゃ...すまんかったのう…とでも言うと思ったかクソガキども!うりゃーーー!」

 

 また普通の砂を投げてきた。

 

「このやろう!出禁にすっぞーーーっ!ウラーーーッ!!!」

 

「!?」

 

 タマの迫力に気圧された砂かけばばあはザルを落としてしまった。

 

「若いもんは年寄りに優しくするもんじゃぞー!」

 

 砂かけばばあは捨て台詞を残して泣きながら店を去って行った。

 

「砂かけばばあは出禁決定なムギ」

 

「う、うん」

 

 僕たちは店内にばら撒かれた普通の砂を静かに片づけたのだった。