orutana2020のブログ

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やしあか動物園の妖しい日常 10〜11話

[飛縁魔(ひのえんま)のリンさん]


 動物たちを相手にする稀有でハードな仕事の上、妖怪たちと共に働かなければならないという現実的で無い世界。


「...やっぱり妖怪たちが原因ですか?」


 園長から最初に説明を受けて腰が引けるのが当たり前だし、辞めたいと思う要素は数えきれないほどあるだろうな。


「うん、まあね。だから人間を採用する時は、園長も普通じゃない特別な人を選択してるんだけど、なかなか難しいみたいだ」


 久慈さんの表情に陰りが見える。
 わたしは今のところ大丈夫!少し元気づけてあげよう。


「わたしも妖怪に驚きましたけど大丈夫ですよ!こんなの慣れですよ、慣れ。変かも知れないけれど、妖怪に興味が湧きつつありますしね」


 表情が一瞬で明るくなった久慈さんがこちらを向いた。


「おっ!?それは嬉しい事を言ってくれるなぁ。まっ、黒川さんには元々期待してるんだけどね」


 人に期待されるというのはやはり嬉しいもの。自分の存在価値を人に認められたような気持ちになれる。


「久慈さんの期待に応えられるように頑張りますね!」


 
 会って間もないのに親近感をおぼえはじめている。本当にわたしの環境に対する順応性は高いのかも知れない。


「遠くの方にお客さんがちらほら見え始てるね。そろそろ事務所に戻ろう。今日は飼育員のミーティングがあるから、そこで黒川さんと他の社員の顔合わせをするんだよ」


「あ、またドキドキして来ました」


「普通にしていれば一見みんなただの人間だ。大丈夫、心配ないよ」


 妖怪だから云々を差し引いても、新入社員のわたしはやっぱり心配してしまう。


 事務所へ戻ると、出勤時に居た人数と同じくらいの人たちが集まり、ガヤガヤとしながら雑談を楽しんでいた。


 そんななか、窓際にあるホワイトボードに20代後半くらいの女性が何かを書き連ねている。作業着姿だったけれどもの凄い色白美人!


 女性は書き終わったのか、マーカーペンのキャップをはめ、社員のデスク側を振り向き呼び掛けた。


「はい!みなさん始めますよ~!こちらに注目してくださ~い!」


 女性が呼び掛けたのにも関わらず、社員たちはガヤガヤと話し続けていた。


 収まらない社員たちの様子を見て久慈さんが教えてくれる。


「彼女は飛縁魔(ひのえんま)と云って、男の心を弄ぶことで有名な妖怪のリンさんだよ。そして、飼育員をまとめるリーダーでもある。でも、まずいな...」


 久慈さんが教えてくれた事に対して返そうとしたその時!


「あんた達!いい加減にしなさいよ!こっちを向けと言ってるだろうがっ!」
 
 めちゃくちゃ怖い形相で飛縁魔のリンさんが叫んだのだった。

 

 


[ミーティング]


 ガヤついていた社員たちが一斉に口を閉じて静まり、ホワイトボードの方をサッと向く。


 全員が注目したのを確認すると、リンさんの顔もすぐに元に戻った。


「もう、あまり怒らせないでくださいね~。では改めてミーティングを始めたいと思います」


 リンさんがそう言ったあと、ホワイトボードに書かれた仕事の改善点や目標を読み上げて行く。


 社員たちはその説明を真剣に聴いていたけれど、わたしは社員たちのある異変に気付いた。


 女性社員たちの視線はホワトボードにしっかり向いている。


 一方の男性社員たちの視線はリンさんにばかり向いていた。しかも、だらしなくうっとりとした顔で。


「久慈さん、男性社員の人たちの様子がおかしくないですか?」


「大丈夫、いつもの事だよ。リンさんが怒った時に[魅了の妖気]を放って、男性社員たちが魅了されているだけだ」


 魅了!?そんな状態で話が頭に入るのだろうか?


「へ~、でも久慈さんは何も変わってないように見えますど…」


「僕は『ああ、また来るな』と思って魅了の妖気に備えていたからね。集中して気をしっかり保っていれば魅了の妖気に触れても平気なんだよ」


 因みに周りを見れば一目瞭然だけれど、わたしを含めた女性には妖気の効果は無いらしい。


「今回のミーティング内容の説明はここまで!何か質問や意見のある人はいますか~?」


 誰も手を挙げる様子は無くシーンとした沈黙の時間が流れる。


「質問や意見も無さそうなので、新入社員の黒川さんへ向けて、みんなからの自己紹介をしてもらいたいと思いま~す」


 リンさんは何だか小学生の自己紹介みたいなノリで話す。


 でも、よくよく考えてみれば今のこの状況は、奇跡のようなものなのかも知れない。
 
 妖怪という特殊で多種多様な個体が集まり、動物園の中だけとはいえ一つの社会を構成しているのだから…


「黒川さん!みんなが自己紹介し易いようにこっちまで来てくれるかな?」


「は、はい!」


 わたしは返事をして席を立ち、リンさんの隣までつかつかと歩き移動した。


 事務室に居る社員は男性が10人、女性が9人の合計19人。


 18人の目が自分に集中しているのを感じて緊張する。
 
「右端のモン爺から順番にお願いしま~す!」


 指名された小柄なお爺さんがゆっくりと席を立って話す。


「わしは妖怪百々爺(ももんじい)のモン爺じゃ。人を病気で患わすことが得意技でのう。年寄りのわしを精々丁重に扱うのじゃ!ケケケ!ケッ!?」


「ゴッ!」


「ドタッ!」


 リンさんの投げたマーカーペンが弾丸ライナーのように飛び、モン爺のおでこにヒットして倒れた。


「みんなも人を脅すような言葉を使えばこうなりまーす。自己紹介をする時は言葉に気をつけてくださいね~

 この人がリーダーをやっているのは必然だなと強く思った。


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小生おるたなWritten by Orutana Nagarekawa shouseiorutana.com

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