orutana2020のブログ

文章を書く上で疑問に思った事や、調べた事を適当に掲載します

やしあか動物園の妖しい日常 34〜35話

[能力封じの魔法]

 

 担当コーナーの給餌を終わらせ、久慈さんと事務所に帰ろうとすると突然後ろから声を掛けられた。


「おーい、今夜は歓迎会かい?良いなぁ君達は」


 さとりの兎のサトリさんは小屋から外に出ている。


「あれっ?サトリさんは歓迎会に参加しないんですか?」


「ボクは心を読めてしまうから、大勢の妖怪があつまる場所に行けないんだ。聞きたくない情報も頭に入って精神的ダメージを受けてしまうからね。便利な能力だけど厄介な事の方が多いんだよ」


「自分で能力の調節は効かないんですか?」


「能力の影響範囲を調節するのは可能だけど、完全には抑えられないんだ。どうやっても半径3mくらいまでしか縮小出来ない」


 サトリさんが項垂れシュンとなっているのを見ていた久慈さんが口を開く。


「僕がやしあか食堂から酒と料理を持って来ますよ!」


 項垂れていたサトリさんが顔を上げる。


「嬉しい事を言ってくれるなぁ。でも久慈っちに悪いからそれは遠慮しておく。明日の朝にでも歓迎会がどんなだったか教えてくれたらそれで良いや」


 きっと歓迎会に参加して楽しみたいのだろう。本心で無いのは表情で分かる。


「待って!わたしに試したい方法があります。ちょっと時間をください」
 
 わたしの魔力を封じているのは腕に付けるブレスレットだけれど、小さい頃は魔女の母が魔法で封じてくれていた。その魔法を一度だけ教わったことがある。
 今それを思い出そうと記憶を辿っていた。
 サトリさんの能力を封じれるのかやってみないと分からない。でも、試す価値はあるはず...


「サトリさん!そこを動かないでください!」


「あ、うん」


「ん~むむむ」


 母に教えてもらったイメージを頭に浮かべながら魔法を発動させる。


「えいっ!」


 サトリさんの身体を魔法の青白い光が覆う。


「う、うわっ!?何これ!?」


 その光は身体の中にスッと吸収され消えて行った。


「どうです?わたし達の心が読めるか試してみてください」


「...よし、やってみるよ」


 こちらに向けて念でも飛ばすかのようにサトリさんが眼に力を入れている。


「...ん!?君達の心の声が全然聞こえて来ない。心が読めないなんて...こんなの初めてだ」


 やった!成功した!わたしもやれば出来るじゃない!


「これで今夜の歓迎会に参加して楽しめそうですね」


「ありがとう紗理っち!」


 ん!?サリッチ!?
 黒っちじゃないの?って言うかいきなりあだ名?


 わたしがやや困惑している間に、サトリさんは嬉しそうに飛び跳ねて小屋の中へ入って行った。


「紗理っちか...うん、良いかも知れないなぁ」


 久慈さんは独り言のように呟いている。まぁ悪くは無いかな...

 


[林の中の結界]

 


「黒川さん良ければなんだけど、これからはあだ名で紗理っちと呼んでも良いかな?」


 わたしは家族や友人からは「サリ」というあだ名で呼ばれている。


 「サリ」より、「紗理っち」の方が可愛いかも?…


「もちろん構いませんよ。何だか可愛らしく聴こえるし」


「決まりだね。僕の事も『久慈っち』と呼んでくれて良いよ」


「それは無理です。すみません」


 あ、まずい...反射的に即答で否定してしまった。


「そ、そう…」


 久慈さんが残念そうにしているけれど、現段階で先輩をあだ名で呼ぶには抵抗がありすぎる。


 悪いと想ったので事務所へ戻る途中にフォローしておいた。


 程なく事務所に着き、ロッカールームで私服に着替えタイムカードを押す。


「久慈さん、準備オッケーです!」


「じゃあ、やしあか温泉に行きますか。場所はやしあか食堂の裏だよ」


「えっ!?やしあか食堂の裏側って確か木の立ち並ぶ林になっていますよね。確か立入禁止の看板があって、鉄のチェーンが張られていたような…」


「とにかく行ってから説明するよ。さ、行こう」
 
 やしあか食堂に着き建物の裏手に回る。


 思っていた通り改めて見ても草木の生い茂る林になっていて、木に巻きつけられた鉄のチェーンが横に張られ、「立入禁止」の看板が掲げられていた。


「この林の奥にやしあか寮とやしあか温泉があるんだ」


「林の奥は暗くて何も見えませんね。何だか不気味な雰囲気がします」


「ハハハ、大丈夫だよ。このチェーンをくぐって先に進もう」


「は、はい」


 夕陽が僅かに残っていたけれど、林の中には光があまり通らず薄暗くなっていて少し怖い。
 林に入って30mほど進むと久慈さんがピタッと足を止めた。


「紗理っち、ここに来て掌をゆっくり前に突き出してみて」


 わたしは久慈さんの背後から左横に移動する。


「こう、ですか?」


「そう、ゆっくりね」


 言われた通りにやると…


「っと!?」


 腕を伸ばし切る前に、わたしの掌が目に見えない何かに触れた。


「触れたみたいだね。それは透明な結界の壁だよ。誤って一般人がこの林に入ったとしても、この先には行けないようになっているんだ」


 結構厳重にしているんだなと感心する。


「でも、この結界をどうやって通るんですか?」


「合言葉のようなものがあって、ある言葉を発すると数秒のあいだだけ結界の壁を通る事が出来るようになっている」


「合言葉…」


「簡単だから覚えてね。じゃあやるよ。やしあかあやかしあやしいな!」


 久慈さんが言った直後に「ヴン!」と音がして目の前の空間が歪んで見える。


「今だ!前に進んで!」


「あ、はい!」


 見えない壁は無くなり何事も無く前に進めた。


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小生おるたなWritten by Orutana Nagarekawa shouseiorutana.com


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