刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第1話 旅立ちノ3
絶句する周りを他所に、光圀が可笑しそうな面持ちで九兵衛について喋り出す。
「こっこっこっ。皆何を驚いておるのじゃ。こやつは長旅で重宝する薬師。その者の薬師としての腕前だけは儂が保証するぞい。困難な旅先で必ずやお主らの役に立つであろうよ」
九兵衛の丁髷の頭に男前とは程遠いとはいえ愛敬のある顔をしている。
ほろ酔いの仙花がその顔を黙ったままジッと見つめていると、その目に耐えらなくなった九兵衛が苦笑いしてお猪口を持った手で頭を掻く。
「せ、仙花様ぁ。そんなにマジマジと見つめないでおくんなましよぉ、あっしはてんで女方に慣れておりゃせんので照れてしやいやす」
頭を掻く動作でお猪口に残っていた酒が隣りのお銀に飛び散る。
すると、お銀の整った美しい眼がみるみる狐のように吊り上がり、気付かぬ九兵衛を睨みつけ怒りの言葉を静かに発す。
「うっかりなにがし殿。酒がちびちびとあたしに飛び散っておるぞ。お主、刺されて死にたいのかい?」
天女のような美しい顔が見るものをゾッとさせるほど豹変し、低くドスの効いた脅しを吐かれたなら即土下座か逃げるかが妥当なれど、九兵衛はそのどちらでもないリアクションをとった。
「すいやせんお綺麗なお銀さん。あっしは天性のうっかり者なんで勘弁してくだせぇ」
なんとヘラヘラと笑いながらそう言ったらば、お銀が目にも止まらぬ速さで九兵衛の襟元をガッと掴み!
「貴様!誠に昇天させてやるぞ!」
やばい!怖すぎる!
どうやらお銀は極端に気が短く怒らせるべきではないらしい。
光圀の前で、しかも仙花の祝いの場でこれは如何と蓮左衞門が腰を上げ、お銀の後ろに回り込み九兵衛の襟元を掴む腕をギュッと握った。
「平に落ち着かれよお銀殿。拙者はしかと見ておったが九兵衛殿のうっかりぶりは真に天然のようでござる。それに此処は光圀様と仙花様の御前なるぞ。場を弁えよ」
蓮左衞門は武芸に秀でているが、それに加え自身より大きい岩を持ち上げられるほどの怪力の持ち主でもある。
比例して握力も桁外れに強い故にお銀の腕は問答無用で襟元から引き離された。
「痛っ!?わかったわかった。蓮左衞門殿その手を離してくれ。腕が千切れてしまうぅ」
「おお、これは相すまん。遂ぞ力を入れすぎてしまったでござる。離すぞ、ほれ」
お銀が余りの痛さに悶え訴えると、蓮左衞門は申し訳なさそうに手を緩め離した。
様子を眺めていた仙花がケラケラと腹を抱えて笑い出す。
「笑わずにはおられんわwww大の大人どもが揃いも揃って何をしておるのじゃwww。明日からの旅はおもしろいものになりそうじゃのうwww」
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