刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ81
江戸時代の「手鏡」とくれば「柄鏡(えかがみ)」と云う呼称の物になる。
柄鏡の素材は青銅であり、表面は錫(すず)によってメッキ加工され、綺麗に磨かれてはいたが顔がくっきりと映るような代物ではない。
そんな鏡に映る顔は多少は歪んで見えることもあるのだが...
「...?!...」
鏡に映る己の顔は確かに歪んで見えた。が、その歪み方が異様であり、健康だった時の己の顔と比べ、明らかに豹変してしまったことに言葉を失う...
正体不明な病に付して体力を激しく消耗し、食欲が無くなり食べていなかったことで痩せ細り、生きながらにしてミイラの如き容貌となっていたのである。
加えて病の所為で顔のつくりを維持する筋肉が衰え、左右の目の位置が均衡を保てず左右非対称となり、真っ直ぐすらっとしていた鼻筋に唇の位置も歪んでしまい、もはや「奇形」や「異形」といった言葉で表現せざるを得ない顔になってしまっていた。
どういった経緯でそうなってしまったのかは謎だけれど、少年のかかった病は他の者達とは特別異質なものだったのである。
神はなぜ、素晴らしい人間性と才能を持っていた韋駄地源蔵少年にこのような試練を与えたもうたのだろうか...
衝撃を受け身体が小刻みに揺れる少年に黙って眺めていた男が声をかける。
「どうだ。己の余りの変容ぶりに驚いて言葉も無かろう。俺も四十年近く生きて来たがお前のように酷く哀れな顔は初めてだ」
「...................」
至極無礼なことを遠慮なく言ってのける男に沈黙で答える、否、言葉を発する気力を取り戻せず握った柄鏡を見つめたままの少年...
「...俺はお前の元の顔を知らん。だからどれくらい変わり果てたのかも知らんが、そんな醜い顔を長々と見ていても仕方あるまい」
男はそう言って少年の手から強引に柄鏡を取り上げた。
呆然とする少年が気力と思考を僅かに取り戻し、ボソボソと独り言を呟いたあと最優先で確認したいことを男に問う。
「さ、よ、は?...」
無論、今日も会話を交わす筈であった妹の紗夜のことであった。
「...さよ?誰だそれは?」
「い、い、もう、と...」
「...悪いが俺は昨日お前の父親から金で雇われたばかりの者でね。お前の兄妹のことはとんと預かり知らぬ」
「.....................」
この浪人風の男の言葉に嘘は無い。少年は男の様子からそう察して項垂れた。
「ふん。まぁ、そうがっかりすることはない。なんせお前は今日此処で俺に斬られて死ぬんだからな」
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