orutana2020のブログ

文章を書く上で疑問に思った事や、調べた事を適当に掲載します

刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ22 ひとくち

「で、でか過ぎる...」

 最も至近距離から眺めていた蓮左衛門。彼の身体は驚きと恐怖から硬直し、石のように固まっていた。語尾に「ござる」を付け忘れるほどに...
 人の脳が処理できぬ現実離れした事象と直面した場合、大抵はこのようになってしまうのではなかろうか。
 
 デイダラボッチの不気味な光る眼、獣のような鼻が認識可能な状態になった時、途方もなく巨大な口が凄まじい速さで闇雲に接近する!

「バァクン!!!」

 梅干を食すが如く闇雲を一口で呑み込んだデイダラボッチ。

「...不味い」

 ただその一言だけを言い残し、何事も無かったかのように怪異の巨人は九兵衛の身体へと戻って行った。

 こうして、お雛の家族の命を奪った闇雲は、デイダラボッチという特級怪異によって斯くも呆気なく消滅したのであった...

 身体を動かせるようになった蓮左衛門が九兵衛に触れて安否を確かめる。
 彼は意識こそ戻っていなかったが、顔色は健康そのものにて気持ち良さげに眠っていた。

「良かった。本当に良かった。無事に生きているでござる。心配したぞ九兵衛...うっ、うっ、うっ...」

 優しい蓮左衛門の心はこの一時の間に激しく揺さぶられた。
 大事が完結し、張り詰めていた緊張の糸が切れ、一気に溢れ出した安堵感から涙を流したものである...

 と、幽霊のお雛が倒れる九兵衛と男泣きする蓮左衛門の前に「ス~ッ」と現れた。

「九兵衛様がご無事なようで何よりにございます...」

 お雛の声に気付いた蓮左衛門が涙を袖で拭き視界に彼女を入れた。

「お雛さん...闇雲は消滅した。あんたの無念は晴れたでござるか?」

 幽霊ゆえ表情に乏しいお雛の顔が柔かに笑っているように見える...

「はい。お二人のお陰を持ちまして、念願叶い、それはもう晴れ晴れとした想いにございます...誠に、ありがとうございました...」

「そうかい、それは良かった。しかし拙者は何もしておらぬでござるよ」

「いいえ、お二人が揃っていらっしゃったからこその結果にございます。九兵衛様がお目覚めになれば、お雛が酷く感謝していたとお伝えくださいまし...それと、御礼と言っては何ですけれど、この家に在る物はどうぞ遠慮せずご自由にお使いください...」

「...あいわかったでござる...」

「それでは、無念の晴れたわたくしはこの世に居られぬようにございますゆえ、程なく天国で待つ夫と娘のところへ向かおうかと存じます...」
 
「達者で...は違うか。元気で...も違うな...幸せになれると良いでござるな」

「はい...」

 お雛が最後に返事をすると、彼女の透明に近かった幽体はさらに薄くなっていき、幸せそうな、安らかな顔をしてこの世から去って行ったのだった...

 

===============================
過去の作品はこちらにまとめてあります!
https://shouseiorutana.com
===============================