刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ40 阿修羅(あしゅら)
「グァグァグァグァ!笑わせてくれる。身の程を知らぬひ弱な人間如きがオレ様に歯向かうとは...貴様に勝ち目などミジンコの毛ほどもないわ!」
ミジンコに毛があるか否かは別としても、化学や科学の発達が遅い江戸の時代において、ミジンコという名の微生物を知るとは恐れ入った。
などと雪舟丸が思うはずもなく...
「お前のような化け物に比べれば俺達は確かにひ弱な存在やも知れぬ...だが、ひ弱であろうとも日々の鍛錬を積み重ねれば、人間もそう捨てたものではない...」
「グァグァグァグァ!ならばうだうだと喋ってないでとっととかかって来い!」
「無論だ...阿修羅(あしゅら)、極めて不本意だが状況が状況だ。お主の力を借りることにしたぞ」
雪舟丸は己の前に立つ亜孔雀に対してではなく、別の誰かに小声で話しかけた。
他の面子と同じく雪舟丸の体内にも特異な力を持つ怪異が潜んでいる。その名は印度神話に出てくる闘神と同じくする「阿修羅」。勿論、此処は日本であるからしてこの阿修羅は闘神などではなく、三面の顔を持つでもないれっきとした怪異である。
だが、他の者が契約という儀式を経て共存するという関係を築いているのに比して、彼と阿修羅の関係に契約の概念は皆無であった。
元来より怪異の阿修羅は雪舟丸と別個に存在していた怪異たり得ず、剣の道を極めんとするため壮絶な修行と闘いに明け暮れた彼の執念が生み出した怪異であり、他の者達とは違う関係性で繋がっているのである。
阿修羅の声が雪舟丸の脳に届く。
「あら~♪、せっちゃんが私の力を欲しがるなんて初めてじゃないのう♪何だか嬉しくなっちゃうわ~♪でもでもでも~♪今まで全然相手してくれてない人にただで力を貸すのはちょっぴり抵抗を感じちゃうわぁ♪」
説明が足りなかったかも知れないが、阿修羅は人間で云うところの女性にあたる。
因みに雪舟丸は空気の読めない阿修羅が嫌いであった。明らかに生きるか死ぬかの絶望的な状況だというのに、こんな気の抜けるような感じで話されるだけでも調子が狂ってしまう。
「...阿修羅、お前と戯れる時間など微塵も無い。さっさとせねば一生口をきいてやらぬ。と言うか存在自体を消してやるぞ」
緊急時ゆえ苛つく雪舟丸が阿修羅を脅した。
「も、もう!せっかちだわねぇ!分かったわよ~!全力でやったげるわよ!後で身体が悲鳴あげても知らないんだからね!」
「構わぬ!」
「ボウッ!!」
炎の燃え出すような音と共に、雪舟丸の身体が金色の妖気を帯びて輝いた!
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