一輪の廃墟好き 第18話 風車(かざぐるま)
貞子のことはしばし忘れるとして、何度でも云ってしまうけれど、目的の廃墟である豆苗神社は井伊影村の森の奥に位置する。
従って舗装された村の根幹たる道路を幾ら歩いても辿り着くとは決してない。
SNSの画像とストリートビューを閲覧し、根幹たる道路の横端にある豆苗神社へと続く細道の入り口の位置は頭の中に記憶していた。
特に誘導する看板や標識などは無いけれど、確か木製の風車(かざぐるま)が目印のようになっていた筈である。
駄菓子屋から20分ほど歩くとその目印となる風車を見つけることが出来た。
「あったぞ未桜。あれが豆苗神社へ続く道の入り口だ」
僕は春風も吹かず無風で回転していない高さ1.5mほどの風車を指差し未桜に知らせた。
「おおっ!♪あの風車のところですな!♪」
彼女は喜びほとばしる表情をして鹿のように跳ねて風車へと駆け寄る。
その余りにも早い行動力が僕の脳裏に不安を過らせた。
「ねぇねぇ一輪!この風車回しちゃって良いかな~?♪良いかな~♪?」
尋ねながらもグルングルンと勢い良く風車を回転させる未桜。
不安的中である。
「ばっ馬鹿っ!年代物の風車だぞ!壊れたらどうすっ!!??」
「バキッ!!!」
止める間も無く、聴きたくなかった木の折れる鈍い音が耳に届く。
「ぅあちゃ~っ!本当にごめん!」
顔が青ざめ凹む僕に未桜が手を合わせて謝るが、僕に謝ってもらってもなんの解決にもならない。
「ったく。困った助手だな...取り敢えずは折れ落ちた風車の羽が無事か確かめるんだ」
「あっ、あいぃ」
元気が自慢の彼女も流石に凹んでいるようだ。
二人してしょぼくれながら風車の安否をしゃがみ込んで確かめる。
四つの目で丁寧に確認した結果...
無事だった!
不幸中の幸いにして羽にははヒビ一つ入っていない!
こう云ってはアレだが、風車を支える棒は幾らでも替えが利く簡単な造りだ。肝心の羽を修復し、しっかり回転するまで再生するには時間と技術が必要な筈である。
「助かったな...」
「良かったぁ...」
僕と未桜は顔を突き合わせ嫌なドキドキ感のある胸を撫で下ろした。
と安堵していたところへ。
「ドドドドドドドドドドドド!!」
かつて聴いたことのない機械音、けたたましい音を響かせるエンジンがこちらに近づいて来る。
僕達が音の聴こえる方を振り返ると。
田畑を耕すための機械である耕運機を運転するお爺さんと、後ろの荷台に座るお婆さんの姿があった。
仮に平常心だったなら、画像で一度しかお目にかかったことのない耕運機を見れた感動があったかも知れないが、風車の支柱を折ってしまった犯人という負い目から、近づいて来るお爺さんとお婆さんの乗った耕運機に不安を覚えずにはいられなかった...
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