orutana2020のブログ

文章を書く上で疑問に思った事や、調べた事を適当に掲載します

一輪の廃墟好き 第71話 釣り道具

 祖父の運転する船は、港が小さくなり、やがて見えなくなるほど遠方の沖合いでまで進んだところで停船すると祖父がキーを逆に回し、なかなかにうるさかったエンジンが止まって静かになった。

 パノラマな空間の上方に雲は多かったけれど、幸にして青空の垣間見える良好な天候。

 祖父が船の床底にある物置の蓋を開け、竿ならぬ凧の糸巻きを大きくしたような釣り道具を取り出し、「こいで魚ば釣れ」などと方言全開で笑みを浮かべ僕に手渡す。

 リール付きの釣り竿でしか釣りを経験したことの無かった僕は当然ながら戸惑った。

 そんなやや固まり気味な僕を他所に、祖父は手早く木製のまな板を取り出し、その上に一匹の大きな鯖を置いて包丁で捌き始めた。

 何をしているのか疑問に思い訊いてみると、また癖の強い方言で答えられ聞き取り辛かったかったけれど、どうやら小さく捌いた鯖の身を餌にするということはだけは理解出来た。

 そこから祖父に言われるがまま釣針に餌を差し込み、錘の付いた糸を伸ばして海に投げ入れる。

 波が小さく静かな海に「チャポン!」と心地良い音が響き、錘の重さで釣り糸の先端は海の底へと沈んでいった。

 祖父が思い出したように白い軍手をズボンのポケットから取り出し、大モノが掛かった時に危ないからと僕に手渡し装着するよう促す。

 僕が両手に軍手を装着している間に手放していた釣り糸が海底に着いたのか、海底へ向かってスルスルと伸びる動きを止めたのだった...

 

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