一輪の廃墟好き 第70話 海と船
実家へ到着した時刻はお昼時を過ぎていた。
当時、漁業を営んでいた祖父母が準備してくれていたのは、鯛や鰤の新鮮な刺身や、貝類や海藻をふんだんに使用して作られた海鮮三昧のご馳走様。
都会育ちの僕に手とっては自宅の食卓に並んだことのない料理が多く、どれもこれも恐る恐る食べたものだったが、格別に美味しく感じたことを覚えている。
祖父母との食事が済んだあと、祖父に「海に魚釣りにでも行かんかい?」と誘われた僕は、両親の承諾を得て祖父と魚釣りへと出かけた。
実家の玄関を抜けて外へ出ると、港の駐車場に着いてすぐに鼻をついた異臭をまた嗅ぐことになったものの、祖父母の所有する小船に乗り込んだ頃には不思議と気にならなくなっていた。
僕は小学三年生のこの時まで、湖に浮かぶ漕ぎボートには父と一緒に乗ったことはあったけれど、海を渡航する本格的な船に乗ったのは初めての経験であり、自身の心臓の音が聴こえて来そうなほど緊張していたような気がする...
祖父が慣れた手つきで港と小船繋を繋げる太めのロープを解き、車のキーとさほど変わらない形のキーを右に回すと、「ポッ!ポッ!ポッ!ポポポポポポポポ!」と音を上げてエンジンが作動し、祖父がレバーを手前に引くと小船はバックを始める。
今回乗ったのは小船だったため、エンジン音はそこまで大きくは無かったが、身体にはエンジンの振動が船の床を通して伝わって来たものである。
祖父は車のようにピタリと止まることの出来ない船を、経験豊かなテクニックで安易と旋回させ、海の沖の方を目指して進ませた。
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