少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語「檻の中の雷獣(らいじゅう)
予想通りタマがハマってしまい、30分もかけてトラを観ることになってしまった。
「タマ~。ムギの観たいハクビシンまでまだ何種類も動物がいるんだ。トラはまたにしてそろそろ移動するぞ」
「仕方ないなー、わかったよ」
ムギに配慮したのかタマは意外にもすんなり従ってくれた。
次々とネコ科の動物を観て行く。
ジャガー、ヒョウ、ピューマと続いたが、ライオンとトラを観た後で迫力不足だったのか、二人ともさほど興味を示さなかった。
しかし、猫のコーナーに差し掛かるとまた興味を示し出す。
まずはサーバルキャットという猫だが、小顔で大きな耳をしていてすらっとした体型。
説明文を読むと「猫界のスーパーモデル」と書かれていた。
「うはぁ~!こいつ、猫とは思えない体付きしてるな!?」
「本当、綺麗なお姉さんって感じがするわぁ」
目を輝かせたタマとムギがサーバルキャットを食いつくように観ている。
最近はめっきり猫姿の少なくったタマとムギだったけれど、猫の時は特別な猫という感じは無く、至って普通の子猫だったような気がする。
二人はサーバルキャットの姿を見て羨ましく思っているのかも知れない。
「二人もいつかはこんな風に成長するかもよ」
適当に言ってみたのだが、二人は満更でも無さそうな顔をしていた。
次がマヌルネコと云って、イランやモンゴルの荒野に生息するヤマネコである。
「この猫可愛い~!サーバルキャットとはまるで逆だわぁ」
「ハハッ!ホントだ。ずんぐりむっくりで耳小さいし顔が大きく見えるな」
という具合でタマとムギは比較して楽しんでいるようだった。
いよいよ次はムギが楽しみにしていたハクビシンの登場。
「ムギ~!ここでやっとお目当ての動物が観れるぞー!」
「え!?今行くー!」
先に移動していた僕がムギを呼んだ。
「しかし、ハクビシンって猫に見えるけど顔がなんだか違う動物に見えるな」というのが素直な僕の感想である。
「どれどれ~ハクビシンさんこんにちは~...!?」
檻の中を覗き込み陽気に挨拶したムギの顔が一変して凍りつく。
「どうしたムギ~、そんな怖いもの見るような顔をして~...!?」
声を掛けてハクビシンを見たタマの表情も凍ったようになってしまった。
「ムギ、こいつってまさか...」
「うん、妖怪だよ。凄い妖気だからタマにも分かるんだね」
「ああ、僕の目には普通の動物の姿で見えてるけど、こいつの出してる妖気が普通じゃ無いからわかるよ」
二人の会話からこのハクビシンが普通じゃ無いのは理解出来たが、人間の僕が妖気を感じることは無かった。
「雷を操る妖怪、雷獣...」
ムギはそう呟いた。