orutana2020のブログ

文章を書く上で疑問に思った事や、調べた事を適当に掲載します

僕達の世界線は永遠に変わらない 7〜8話

[審判の時]

 

 浴槽に浸かる前のように右手でポッドの液体に触れて温度を確かめる。

「ぬぉっ!?つ、冷た過ぎるんですけどーっ!」

「ああ、半年ぶりで忘れてよ。このサウナスーツで身体を温めてから入るんだった。すまんすまん」

 親父~!なんか緊張感に欠けるんだよな~!

 黄色い特殊な生地のサウナスーツを渡され着用して、親父がスイッチを入れると熱いと思うほどの温風が一気に流れ込んでくる。
 
 1分とかからず僕の身体から汗が吹き出し、ポカポカを通り越してアツアツになって来たところでサウナスーツを脱ぎポッドに再挑戦すると、今度はその液体の冷たさが気持ち良くさえ感じた。

「この酸素マスクを着けて液体に身体の全部を浸けるんだ」

 言われるがまま渡された酸素マスクを着用する。

「匡、じゃあ一ヶ月に」

「治療が終わったら美味し料理を作ってあげるからね!」

 親父と母から声をかけられ、僕はコクンと頷いて応えた。
 そして、少し弾力を感じる液体の中に目を閉じ全身を浸ける。
 「ウィーン」という機械音が微かに聴こえた。ポッドの入り口が閉まる音だろう。
 機械音が無くなり真っ暗で無音の世界が始まった。
 まだ寝るには早い時間だというのに睡魔が襲ってくる...
 僕の意識はいつの間にか途切れていた。

 


「........................」
 
 ...ん...意識が...あるのか...
 もしかすると治療が終わったのだろうか?

「.......」

 誰かが何か言っているような気がする。外部からの音声ではなく頭の中に人が居て喋りかけているようだ。

『...地球に存在する全生命体に告ぐ。審判の時は来た。全ての力を解放する先に待つは共存か破滅か、或いは別の道があるのか。各々が意思で審判を下すがいい...』

 恐らく女性の声だったと思う。
 だけど話の意味がサッパリ分からない。
 考えているうちに睡魔が襲ってくる。
 やがて僕の意識はまた途絶えたのだった...

 

「.....................」

 ...お...なんだ..意識が...ある...
 治療は終わったのか?
 目をゆっくり開けると、液体越しにポッドの入り口が開いているのを確認出来た。
 身体は動くかな...
 ぐぐっと拳を握ってみる。
 お、少しずつなら動かせそうだ。
 僕はポッド内の側面に両手をあてじわじわと身体を起こす。
 液体の水面から顔が出たところで酸素マスクを外した。

「ぷふぅぅ...さ、寒い」

 身体の感覚が戻って来たのか液体の冷たさが身にしみてブルブルと震え出す。

 周りを見回したが親父と母の姿は見えず、部屋にはポッドに連動している各装置の音だけが響き渡っていた。
 

 

 

[意味深な手紙]

 

 人体万能治療ポッドから滑り落ちるように這い出し床に倒れる。

 首に力を入れ顔を上げると一つのダンボール箱が目に入った。

 ダンボール箱の側面にはマジックペンで「匡用着替え」と書かれている。

 蓋を開けて中を覗くと一番上に白いバスタオルが入っていたので、取り出して身体中に纏わりついた液体を拭き取った。

 ダンボール箱の中身は母が揃えてくれたのだろう。替えの下着と服が綺麗に畳まれ詰め込まれている。

 着替えを全部取り出して着たあと、他に何か入っていないかまさぐるようにして確かめる。

 すると、ダンボール箱の底に一枚の茶封筒があるのを見つけた。

 直ぐに封を開けて中の便箋を取り出し、書かれている内容を読んでみる...


『おはよう匡。あなたがこの手紙を読んでいるということは、きっと無事に治療が終わって元気にしているのよね。
 匡、残念だけどわたしは、治療に入る前に約束した料理を作ってあげられないかも知れない。
 あなたが治療に入ったあと突然にして世界は変わってしまったの。
 もし、家からわたしと父さんが居なくなっていても、絶望などせずに強く生きて下さい。
          8月3日 母より』
 
「...何だよこれ...」

 情けない話だが、手紙を読み終わった僕の思考は錯乱していた。
 一ヶ月間の眠りから目覚め、こんな内容の手紙を読んで混乱しない人が果たしているだろうか?

 部屋に置いてあったリクライニングチェアに腰掛けて目を瞑り、暫く心を落ち着かせることに専念した。

「取り敢えずこの部屋を出てみるか...」

 心の落ち着きを取り戻した僕は、そう呟いて親父の書斎に繋がる階段を上って行く。

 もしかしたら階段を上り切った先が書斎の本棚で塞がれてはいないだろうか?などと危惧していたのだが、その心配は無用だったようで、地下室への入り口手前の本棚は左右に移動したままだった。

 カーテンは閉められていたのだが冷房が稼働しておらず、空気も淀み真夏の暑さで書斎の気温が凄まじい。

「この暑さはきついな...」

 地下室との温度差が激しいためか僕の深い指数が一気に上昇する。

 外の新鮮な空気が吸いたいな。
 僕はカーテンとガラス張りの出窓を開け、窓から顔を出して新鮮な空気を思いっきり吸い込み深呼吸をする。

「ふぅは~......ん?あれは、火事か?」

 遠くの方で黒い煙がモクモクと上がっているのが見えた。
 この家は多くの人が住む住宅地にあるのだけれど、その煙が上がっている位置にも家が立ち並ぶ。
 遠くの方である火事なら実害も無いし、年に数回見かける光景でもあると言えばある。
 煙のことは余り気に掛けないようにして、取り敢えず家の中に両親が居ないか確かめることにした。

 

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