夢中の少女 [冷蔵庫の中には...」
「うん...分かった。父さんの言う通りにするよ」
本当は一緒に外へ出て母を探したかった。だけど、誰も居ない家に母が帰ることがあれば心配するかも知れない。そう考え父の言うことを素直に聞くことにした。
「よし、良い子だ」
父は僕の頭を強めに撫でたあと、足早に自分の部屋へ戻り防寒着を羽織り準備をする。
そして玄関で長靴を履き、靴棚の上に常備してある懐中電灯を手に持ち出入口の引き戸を開けた。
引き戸の開いたスペースから外を覗くと、また雪がしんしんと降り始めている。
「行ってくる。凪、家は任せたぞ」
「大丈夫!父さん気をつけてね!」
父は外を向いたまま手を振り森の中へ入って行った。
僕はその後ろ姿が見えなくなるまで見送り、出入口の戸を閉め、言いつけを守って居間のこたつ入る。
「ギギギ...ギギ...」
誰も居ない家の中は静か過ぎて、普段は聴こえない木造の骨組みが軋む音が不気味に鳴り続けた。
静けさが怖くなった僕はテレビのリモコンを手に取り、不必要な力を込めて電源ボタンを押す。
「キャーッ!キャーッ!」
「わぁっ!!?」
テレビから女性の耳をつんざくような絶叫がいきなり聴こえ、驚いた僕は反射的にこたつの中へ潜った。
一分ほど耳を塞いで情報を遮断したのち、恐る恐るこたつから這い出てテレビ画面に目を向ける。
よりによって[真冬の心霊特集]という特番を放映されていた...
僕はすぐにポチポチとリモコンを押し、笑い声の聴こえるバラエティ番組に換え、ほっと一息つく。
「グルルル...」
「お腹減ったなぁ...」
自分のお腹の鳴る音が聴こえ、夕食の時間をとうに過ぎていることに気づいた。
気付いてしまってからはお腹が減ったことを意識し続け、我慢が効かなくたった僕は台所に向かい冷蔵庫を開ける。
一番最初に目に止まったのはクリスマスケーキの入った箱...
何もなければ、今頃は三人で楽しく食べていたクリスマスマスケーキ...
三人揃って賑やかにクリスマスケーキを食べている場面を想像してしまう...
父はいつものようにビールを呑みながら大声で笑い、母が「行くわよ~」とクラッカーを鳴らそうとするが、怖がってなかなか鳴らせずにいる。
先に僕がクラッカーを鳴らすと、母が音で驚いた拍子に持っていたクラッカーを父に向けて鳴らしてしまい、三人が一瞬キョトンとなったあと笑い合った。
父がクリスマスケーキのロウソクに火を点け、母が部屋の灯りを消して僕が「フーーーッ!」とロウソクの火に息を吹きかける。
想像上のロウソクの火が消えた時、現実に戻った僕の目からは涙が溢れていた...
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