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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第1話 旅立ち ノ21

 煙玉の濃い煙が薄くなり、立ち尽くすお銀の元へ仙花が駆け寄る。

「お銀!曲者は逃げてしまったのか?」

「申し訳ございませぬが左様にございます。手前としたことがまんまと逃げられてしまいました」

 お銀がその場で屈み頭を下げて恭しく陳謝した。

「いや、取り逃したのは儂が出張ったせいであろうな。お主一人であれば逃亡を図ることも無かったかも知れぬからのう...」

「いえ、やはり最初から手抜きなしの全力でやっていれば...」

「もう良いではないか。仙花にお銀。二人とも下に降りて参れ」

 仙花に遅れて屋外へ出ていた光圀が声をけた。その後ろには誰よりも早く曲者に気付き、皆に知らせた雪舟丸が器用に立ったまま眠っている。

 仙花とお銀の二人が社の屋根からヒョイっと舞うように降り光圀の側へ寄った。

「お銀。逃げた曲者の素性は分かるか?」

「......詳しくは分かりませぬが奴は忍者の里の一つ駿河の抜け忍、『雲隠れの磨伊蔵』で間違いございません。誰に雇われたのか訊き出そうとしたのですが...」

 光圀が優しい顔をして右手を軽く挙げ、お銀の心中を察っしてか釈明を中断させた。

「もう良いと言ったであろう。しかし....儂は敵が多いからのう。誰が刺客を放ったのか思い当たる節があり過ぎて絞れぬ。狙いも仙花か儂なのか、ふむぅ...如何、日頃の半分も頭が回らん。夜更かしは儂のような年寄りには応えるわい。面倒なことは後回しにして明日に備え、そろそろ皆寝るとしようではないか」

「...承知しました」

「だなぁ。ふぁぁぁ~、流石に巨大な睡魔が襲って来たわい。ん!?一つ気になったのだがお銀よ。お主はあれだけ呑んで爆睡しておったのに良くあやつとバシバシ戦えたのう?」

 訊かれたお銀が仙花に美しい笑顔を送る。

「有名になるであろう『酒は呑んでも呑まれるな』という言葉を実践したまでで....うぷっ!?」

「ぬっ!?」

「おわっ!?」

 話しの途中でお銀の頬が急に膨らみ慌てて手で抑えるのを見て、驚いた光圀と仙花が条件反射的に後ろへ引き退った。

「お銀!は、吐くならそこの草むらでじゃあ!」
 
「急げ!急ぐのだぁ~♪」

 必至な光圀と愉快そうな仙花の二人に黙って会釈したお銀は、くノ一さながらの速さで草むらへ消えて行った。このあと、先に外で撃沈していた滝之助の身に起こった世にも悍ましい光景は、幸いにして誰の目にも触れることなく、お銀ただ一人の胸に固く仕舞われたものである。

 こうして、水戸光圀の隠居住まいである西山御殿の長く濃密で騒がしい夜が、遂に終わりを迎えたのだった。

 

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