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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ32

 「食事会」などと言えば聴こえが良すぎるかも知れないが、実際は焚き火を囲い木や石に座って馬肉を喰らう傍目にはお粗末なものである。
 しかし、村人達にしてみれば馬肉は一生に一度ありつけるかどうかというほど貴重なものでもあった。

 仙花一行の面子なら、こういった雰囲気で在る場合は誰かが「酒でも呑みましょうや」と口火を切り出しそうなものだけれど、村人達の心中を考えて気を使い、誰一人としてそういった提言をする者は居なかった。

 一日で常人の旅人の倍は歩いたであろう仙花一行は元より、村を襲った多大なる災難により元気を失くしていた村人達も生気を取り戻し、美味しそうに馬肉料理を食べている。

「美味い!美味いでござるなぁ♪昨夜は猪、今宵は馬肉料理にありつけるとはなんと幸せなことよ。なぁ九兵衛!ハッハッハッ〜!」

 体力馬鹿の蓮左衞門は尋常でない大量の荷物を背負い歩いた疲れを一切感じさせない活力があり、豪快に肉を頬張りがら皆を元気づけるかのように笑い声を上げた。

「そうでやんすねぇ♪肉なんてもんはあっしもそうそう食べておりやせんでしたので...ん?あんさん、もしかして大怪我でもしてやしませんか?」

 九兵衛の視界に入った村人の男が、ろくろく箸を動かさず苦痛に歪む顔していることに九兵衛は気付いた。

「へ、へい。実は芥藻屑の連中に斬られた腕の傷が痛むもんで...」

 男のさする腕の袖には微かに血が滲んでいる。
 と、九兵衛は突然箸を置き、何も言わずに荷物を置いている場所へ駆けて行った。
 キョトンとする男に蓮左衞門が声をかける。

「旦那、あいつは優秀な医師にござるよ。恐らくは旦那の為に痛み止めの薬でも取り入ったのかも」

「こんなちっぽけな男のために...そうですか...有り難や...」

 男は箸を置き目を瞑って手を合わせ、まるで仏様にでも感謝しているようである。

 程なくして帰ってきた九兵衛は蓮左衞門の予想通り、男に痛み止めの薬を渡して飲むように勧め、己の食事を中断して腕の怪我の治療に当たった。

 そんな九兵衛の様子を感心しながら眺めていた仙花が呟く。

「うんうん、九兵衛は医師に適した清い心の持ち主のようだ...」

 仙花は若い年齢に似合わず、家臣の人となりをしっかり掌握しておこうと考えていたものだ。

 横に座る郷六がお椀の汁を啜り終わり、仙花に重い顔つきをして話しかける。

「仙花様、此度は芥藻屑のことといい、食事のことといい、誠に感謝しております...しかしながら、手前共はその御恩に報いることができぬ現状...どうかお許しくだされ...」

 

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