刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ64
「.............俺の名を知っているのか小娘...ならば俺の過去についても知っているのか?」
無表情で問いかける韋駄地の声は存外若かった。普通に計算すれば現在七十近い老人の筈である。重く渋い声質だとはいえ、とても老人の出す声には聴こえない。
「そんなものはとんと知らぬ。非道な悪党の過去なんぞに儂は興味を持たぬよ」
「フッ...だろうな。良かろう、今より斬る貴様の名だけでも訊いておこうか」
口角を上げニヤリとして答える仙花。
「水戸光圀」の名を聞いた韋駄地の目が鋭くなる。
「そうだ。曲がりなりにもな」
韋駄地の顔は面具で覆われているため口元は見えないが、露顕している目だけが笑って見えた。
「ククク、これはおもしろい。まさか幕府の...しかも徳川姓の人間を狩れるとはな。まだ我が天命も捨てたものではなかったらしい。小娘、残念だが貴様は楽に殺してやれそうにない...」
「はん!それは杞憂に終わるというものだ。いざ尋常に一騎打ちといこうか」
仙花は鼻で笑い、鞘からゆっくりと脇差の「風鳴り」を引き抜き構える。
韋駄地も手にした弓を放り投げ、背中に縛っていた長槍を手に持ち構えた。
相手の武器は仙花の初めて経験する長槍。果たしてどういった戦略を立てて挑むのか?
滑りやすい瓦屋根ということもあり、草鞋を脱ぎ捨て息を整えた仙花が駆ける!
「タッ!」
韋駄地は瓦屋根の上方に立っているため若干の上りとなる。
だが瓦屋根の斜面を軽やかに駆ける仙花はそれを苦にしない。
「ビュッ!」
至近距離まで達した彼女に向けて長槍の閃光のような一突き!
「サシュッ!」
俊敏にサッと避けるも髪を切られてしまう。だが「風鳴り」の届く範囲に入った!
「もらった!」
「ギィッイィーーーン!!」
「っ!?」
仙花の一撃が韋駄地の身体へ触れる直前に相手の刀によって弾かれた!?
韋駄地は咄嗟の判断により余った左手で腰の刀を抜き彼女の刀を払ったのである。
「不味い!?」。刀を払われ、隙のできた瞬間に危険を察知した仙花はその場から飛び退き韋駄地と距離を取った。
「なかなかの速さだったぞ小娘。それに初撃を避けたことを褒めてやろう」
「ハハハッ。お主もなかなか見事な判断であったぞ。儂も褒めておいてやろう」
と余裕を見せて応じた仙花であったが、この一合の激突で韋駄地が只者でないことを感じ取っていたのだった。
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