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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話芥藻屑との戦 ノ79

 病に倒れる以前までの自分は家族に愛され、町の多くの人々にも好かれていた筈ではなかったのか?

 百歩譲って町の人々がこの小屋を訪れないのはまだ分かる。だが同じ血を分けた家族が誰一人として会いに来ない理由はいったい何だというのだ?

 自惚れではなく優秀で将来有望だった自分を優しい父と母の二人は愛してくれていたのは間違いなかっただろうし、弟や妹達も自分を頼りにし大いに慕ってくれていた筈だ。

 ぼんやりと回らぬ頭で考えれば考えるほど理由が分からない。もしや家族は皆何処ぞの悪党に襲われて亡き者になってしまったのだろうか?
 それとも自分と同じ病にかかってしまい、家族の住まう屋敷がとんでもないことになっているのでは?...
 
 などと床の上で幾ら考えても所詮は無意味で憂鬱な空想に過ぎない。

 源蔵少年は人間の基本的動作である歩行すら困難な状況ではあったが、家族が訪れない真相を確かめるため、不憫な現状で可能な限り行動に移すことにした。

 手始めに小屋へ食事を運んで来る者が誰であるのか探ろうと考えた。

 思い立った翌日の正午、布団を極力壁の小窓に近づけ食事を運ぶ者を寝て待つ源蔵少年。

「カチャカチャ、カチャカチャ」

 いつもの時間にいつもの茶碗の擦れ合う音が聴こえ、すべからく木製の小窓が開いた。

 お膳を持つかなり細めで白い両腕が見えた。
 恐らくは女性であろうと予測を立てた少年がか細く嗄れた声を発する。

「も、し...す、こ、しだ、け、はな、し、を...」

 するとその女性らしき人物はお膳を持つ手を緩め、「ガシャン」と床に荒々しく置かれ、サッと両腕を引っ込めて小窓を閉めてしまった。

 だがその人物が立ち去る物音が聴こえない...

 ひょっとすれば去るのを躊躇し、こちらの出方を待っている可能性がある。
 一遇の機会、少年はか細く嗄れた声では外に届くまいと、小窓に近づき一所懸命に腕を伸ばし「コン、コン」と軽く叩いた。

 すると、暫くしてまた小窓が開く...

「源兄様、紗夜にございます...」

 周囲に気を遣っているのか声が小さく聴き取り辛い。しかし少年の耳には確実に届いていた。

 病に伏す自分に毎日欠かさず食事を運んでくれたのは、一番可愛がり仲の良かった一つ下の妹の紗夜だったのである。

 心から待ち望んでいた家族である人の声を聞き、少年の胸は熱くなって震え、目からは大粒の涙が溢れた...

「さ、よ...あ、り、が、とう...」

「いいえ、源兄様。それより早く良くなってくださいませ」

 力を振り絞って出した声は彼女へ無事に届いたのだった。

 

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