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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ78

 布団の上で一日中高熱にうなされ、暑い夏の小屋の中で大量の汗を掻き酷い脱水症状に襲われる。

 小屋の壁に設けられた小窓から差し入れられる料理には、食欲と体力も失われているため一切手をつけられず、誰も目にすることはないまま韋駄地は痩せ細り憔悴していった。

 この苦しく悲惨な状況が長らく続き一月もの時が流れた頃、永遠に治らないとも思えた病がついに快方の兆しを見せ始める。
 彼は十三歳にして死の恐怖を一ヶ月ものあいだ体感し続けたけれど、生きたいという強い想いから病に打ち勝ち、とうとう長く暗い絶望の洞窟を抜けることができたのである。
 とはいえ、まともに食事を摂れていなかったため、憔悴しきった彼の身体はなかなか回復出来ずにいた。
 だがこれは単に食事を摂れなかったことが原因ではなく、不運にも彼の身体にはとんでもない異変が起きていたのである。
 一月ものあいだ下がらなかった熱は彼の脳細胞を破壊し、達の悪い謎の病原菌が身体全体をくまなく蹂躙してしまっていたのだ。

 本来なら若い彼の身体は強力な新陳代謝により回復していく筈なのだがそれがほとんど機能せず、熱が下がった時点から一週間が経過しても立ち上がることすら叶わなかった。
 頭の中もかつてのよう冴えは蘇らず、ぼんやりとした記憶や考えしか浮かばなかった。半ば思考が断続的に停止しているような状態である。
 
 それでも若い少年は生きることを諦めない。

 誰やも知れぬ、顔を今まで一度も拝んだことのない者が毎日食事を運んで来る。いつも壁の小窓から投入し置いて何も話さず去っていくのだが、少年は立ち上がれないため這いつくばって小窓まで近づき、飯を鷲掴みにして口の中へ放り込むとたっぷり時間をかけて咀嚼し呑み込んだ。

 こうして食事を摂れるようになってまた一月の時が流れる。

 少年はぼんやりとする冴えない頭で考え、病になる前の自身のことを思い出し、元気な姿に戻って大好きな家族とまた普通の暮らしがしたいという強い願望を持ち、生きようとするとてつもなく固い意志で身体の回復に努めた。
 
 その甲斐あってか、未だ立ち上がれないながらも身体を起こして食事を摂れるまでに回復し、か細く嗄れてはいたが言葉を発するまでになったものである。
 
 病が治ってからというもの日々気分は優れなかったが、ある日のこと少年はふと想う。

 病は治まり、至極遅れているとはいえ体調も回復に向かっているというのに、なぜ家族は誰一人として会いに来てくれないのか?

 

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