一輪の廃墟好き 第91話 番台に座る老婆
そんな馬鹿みたいな僕の様子を、不思議そうな顔で下から覗き込むように眺めている未桜。
まずい、何か感づかれたかも知れない。
「ねぇねぇ、こんなところで立ち止まってないでサッサと中に入ろうよぉ。時間もあんまりないんだしぃ」
OKOK、全然セーフだ。
何も案ずるようなことはない。未桜の言うようにサッサと温泉に浸かって汚れた心身ともに清めようじゃないか。
僕達が入り口の戸を開き中へ入ると、予想していたよりも若干広めの玄関を上がった直ぐ先にある、昔の銭湯にありがちな番台では老婆コックリコックリと首を縦に振りうなだれていた。
眠そうではなく、しっかり確定的に眠っている。
しかし、今日は様々な「老婆」に会うものだな...
過疎化している僻地の村なのだからそりゃそうだろとも思うのだけれど、新しく現れる登場人物がこんなにも「老婆」だらけで良いのだろうか?
ん!?まてまて、僕はいったいなんの心配をしているんだ?
などと思っている間に、左手にある「男湯」ののれんをのっそりとかきわけ、ふにゃふにゃな顔をした老爺(ろうや)が現れ、番台で居眠り真っ最中の老婆に声をかける。
「八恵さん、起きんかい。若いカップルのお客さんが目の前に来とるでぇ」
「カップル」という言葉はスルーするとして、老爺の声は普通の音量だったと思うのだが、耳が遠いのか、はたまた眠りが深いのか、「八恵さん」と呼ばれた老婆はなかなか起きてくれない。
こうなってくると黙っていないのがうちの元気活発な助手である。
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