一輪の廃墟好き 第92話 衝撃的
「事故との遭遇」直前とでも言うべきだろうか、僕の優秀な頭脳と極一般的な心臓を単純に嫌な予感が走り、横にいた未桜を制止しようと動いたのだけれど、時すでに遅し、彼女は番台で気持ち良さげに眠る老婆の隣まで素早く近づいた。
そして、嫌な方向で予想が的中してしまう。
未桜は両手を使ってまさにお手製メガホンの形をつくると、「眠り老婆」こと、八恵さんの耳元で大きな声を張り上げる。
「おっばぁーーーさーーん!!!起きてくださーーーい!!!」
「ぶぅをほっ!!??」
僕は初めて目の当たりにした。
テレビで芸人さんなどが演じるコントにあるような場面であったが、実際に目の前の至近距離で見ると物凄くインパクトがあるんだな...
人の口から入歯が飛び出す場面というものは...
僕は呆気に取られて暫く放心状態になってしたまったが、傍にいた老爺は意外なことにその表情から至って無反応を示している。
「八恵さんやっと起きたなぁ。良かった良かったハッハッハッ!」
僕にとっては息が止まるほどの衝撃的な場面だったのだが、きっとこの老爺にとってはさして珍しくない場面だったのだろう、平然と高らかに笑いながら八恵さんの肩をポンポン叩いている。
「ひらっはい、ほひとりはまごはくへんひはりはふ」
「一人五百円だと言っておるんよ」
入歯を失い、まともにしゃべる事の出来ない八恵さんの通訳を、こちらが頼みもしないのに買って出る親切な老爺であった...
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