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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 疾風怒濤編 第141話 地蔵

 冬の夜の訪れは早い。

 

 夕刻に帰路へと着いた清兵とトキは兎角急いだ。

 

 晴れの日であればまだしも、粉雪が降り始めた悪天候とあってはゆっくりなどしてはおられない。

 

 それに家で待っている子供達のことも心配であった。

 

「エッホ!エッホ!エッホ!」

 

 清兵が掛け声を上げながら、年末年始を豊かに過ごすために買い込んだ物資の積まれた重い大八車を懸命に引き走る。

 

 それを後方で押して補助するトキもまた必死でついていく。

 

 不始末村までの道のりの中間地点に差し掛かった折り、ここら辺ではちと名の知れた「七人地蔵」の並ぶ場所へと辿り着き、急ぐ二人が気にも止めず通り過ぎようとしたその時。

 

「その人形は捨てよ」

 

 誰もいないところで不意に聴こえた声に、清兵が急ぐ足をピタッと止め後ろを振り返る。

 

「おいトキ、今しがた誰ぞ男の声が聴こえんかったか?」

 

「...やっぱり気のせいじゃなかった。あんたも声を聴いたんですね」

 

 二人は一瞬目を合わせたあと、人気(ひとけ)のない辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「だが誰もいねぇなぁ...」

 

 清兵が誰も見当たらずそう呟くと。

 

「儂じゃよ」

 

 先ほどと同じ声が清兵の耳に届く。

 

 しかし清兵は二度目にして聴こえた声質が人間の発する音で無いことを少しなりとも感じ取ったのだった。

 

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