刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ20
仙花が郷六へ近づき優しくそっと背中に手をあてる。
「儂は残念なことに未だ人生経験が少ないゆえ、力無き者達の真意は計り知れぬ。だが郷六、其方の無念な想いは儂の心に極めて刺さったぞ...さて、其方らは力を持つ儂らに何を望む?素直に申してみよ」
感情剥き出しに泣いていた郷六にとっては、優しく話しかける仙花の声は十六歳の少女のそれではなく、大袈裟に云うならばまるで女神にでも語りかけられているように感じたものだった。
不思議と心が癒された郷六は袖で涙を拭いゆっくりと面をあげる。
「...も、もし叶うものならば、芥藻屑共に連れ去られた村の民達を、取り戻して頂きたく存じます...」
「うむ、その願い、確かに引き受けたぞ。なぁ~に儂らに任せておけば大丈夫だ。明日にでも芥藻屑は滅び、連れ去られた者どもは帰って来ようぞ」
仙花は即座に言葉と満面の笑みをもって郷六に返答した。
「こ、こんなちっぽけな村のために忝うございます。感謝いたしまする~」
一瞬「本当に!?」というような驚きの表情を見せた郷六だったがすぐさま頭を垂れ、他の村人達もそれにならい「ははぁ」と敬意を払い頭を垂れた。
「ぐぅぅぅぅ」
と此処で空腹を知らせるように腹が鳴り、サッと手で腹を押さえる仙花。
「おっと!?腹が減っておったのを忘れておった。郷六、こんな時にすまぬが何か食い物は残っておらぬかのう?」
郷六がハッとした顔を見せ村人達の方を振り返って訊く。
「仙花様の御一行は旅疲れで腹をすかせておいでのようだ。お前達の中で家に食い物が残っておる者はいるか?」
と、よく見れば村人達の大半は年寄りで若い者は一人も見当たらない。一番若い者でも三十代半ば頃ではなかろうか。
やはり連れ去られたのは十代、二十代の若者ばかりだったのだろう...そんな村人達がそれぞれの顔をのぞいては首を横に振る光景が多く見られた。
「干し椎茸なら何個か残っているかも知れん」
一人の男が郷六に手を挙げて告げた。
「そうか、干し椎茸か...」
渋い顔をしてそう呟いた郷六が仙花の方を振り返りものを言おうとすると。
「いや、これは相すまんかった。其方らは芥藻屑に食糧まで奪われてしまったのだな...気付かず言ってしまったことを此処に詫びるぞ。一晩くらい食わずとも死にはしない。明日の早朝にでも森へ行き獲物を狩って其方らに献上しよう」
「め、滅相もございません!仙花様にそのようなことをしていただくわけには参りませぬ。明日の早朝で良いのであれば、手前どもで準備いたしますゆえ」
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