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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ42

 見張りを一掃したお銀は、三軒並ぶ見窄らしいが大きい社のうち外側端の一軒の戸の前に立ち、周りに人気が無いことを確かめそっと戸を開ける。

「うっ!?」

 少し開けただけで漂って来た鼻のもげるような異臭に思わず声が漏れた。

「....この臭いは人の肉が腐食したものか...」

 中に脚を踏み入れたお銀はその推測が正しかったことを直ぐに知ることになる。
 何故なら、薄暗い部屋の中は間仕切りなどが一切無く、綻びだらけの畳敷の大広間に布団は敷かれておらず、畳に直接寝転ぶ四十人ほどの民衆の姿があり、部屋の右奥の角には数人の死体が積み重なっていたからだ。

「これは酷い、人が生きるような環境とはとても思えぬ...」

 そう呟いたお銀は胸の辺りから紫の布を一枚取り出し、鼻と口を覆って首の後ろで強く結ぶと、手前で小さめのイビキをかきながら眠る男に近づき手の甲をヒタヒタとあてる。

「あんた達を助けに来た。起きておくれ」

 すると男はイビキを止めハッとして目を覚ましお銀の顔を凝視した。
 男は明らかに怯える震えた声で問う。

「た、た、た助けにきたって、ほ、本当ですかい?」

「そうだ。起こして悪かったが一刻を争う。あまり音を立てずに皆んなを起こしてくれないかい?全員を起こし終えたら正門へ向かうんだ。いいね?」

 普通の正常な生活をしているならばまだしも、囚人となり、芥藻屑の連中に虐げられ続けた男にとって初めて会うお銀の素性などどうでも良かった。
 男の感情は一気に昂り、寝起きを感じさせない顔つきで大きく縦に首を振る。
 
 男が立ち上がって他の者達を起こしにかかるのを確かめた彼女は外へ出ると、隣の社に移り同じように呼びかけたのだった。

 お銀が三軒目の社を訪れた頃、全力で駆駆け抜ける仙花は正門に辿り着こうとしていた。

「二人、だな」

 正門に立つ門番二人が視界に入り走りながら弓を構える仙花。

「ビュン!」

 放たれた矢は空気を切り裂き門番の頭を見事に貫く!

「よし!あと一人!....あれっ!?あれれっ!?」

 背中の矢筒へ伸ばす手に矢の筈が触れず、慌てた彼女は矢筒を前に回し中を確かめる。

「無いっ!?くっそ~かくなる上は!」

 弾切れを悟って鞘から「風鳴り」を抜き放ったが、この矢数の誤算が戦況を大きく動かすことになる。

 門番の片棒が矢に打たれて倒れたことにより、仙花の存在に気づいたもう一人の門番が蛇腹の中へ逃げたのだ。

 逃げた男は存外すばしっこく、超の付く脚力を誇る彼女でも容易に追いつけなかった。中央社の上階に立つ仙花一行が見落としていた見張りに男が叫んで伝える。

「敵襲!敵襲だーーーっ!!!」

 

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