刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ40
「仙花様にもご武運があらんことを」
と仙花に返した雪舟丸が、普段とは別人のような顔つきをして誰よりも早く目的の西門へと走った。
「あたしらも行くよ!」
「へ、へい!」
気合いの入ったお銀の声に若干気圧された九兵衛焦って応じると、二人は仙花に指定された崖へと向かう。
「蓮左衞門、皆に遅れをとってはならぬ。儂らも行くぞ!」
「承知にござる!」
仙花と蓮左衞門の二人も東の門へと駆け出し、一行は三方へ別れそれぞれが行動に移したのだった。
早々と目的の地点まで到達したお銀が崖を降るために縄を準備し、ドタドタと遅れてやって来る九兵衛を待つ。
「ちっ、やはり遅い」
くノ一であるお銀の脚の速さと常人の九兵衛を比べるのは可哀想だったが、時間との戦いでもある現状がお銀の九兵衛に対する苛立ちを掻き立てた。
そこへ九兵衛が息を切らせて辿り着く。
「ハァハァ、すいやせんお銀さん...」
「...ねぇ九兵衛、気を悪くしないで聞いて欲しいのだけれど、此処から先はあたし一人で行かせてもらうよ。あんたは正面の門で待ってるんだ。あたしが正門へ囚われた民衆を誘導する。あんたは来た民衆を纏めて安全な場所まで連れて行っておくれ」
「........へっ、へい!お銀さんの言う通りに致しやす」
急なお銀の指示に一瞬戸惑った九兵衛ではあったが、どう考えても己は彼女の足手纏いになると踏んだ九兵衛は正門へ向かうことに決めた。
「よし、後でまた会おう」
お銀はそう言い残し素早く縄使い颯爽とほぼ垂直な崖を降る。
常人ならば脚がすくみ震え上がるような崖も、彼女からしてみればそこらの木の上から降りる感覚と差して違いはない。
あっという間に崖下に降り立つと、目の前にある家屋の屋根上に飛び乗り、囚われた民衆が囲われているであろう社を目指し、家屋の屋根から屋根をまるでムササビのように飛び移って行く。
一方その頃、意外にも脚の速かった雪舟丸は西門付近の岩陰に隠れ、門前に立つ男二人の様子を探っていた。
「...奴らに気付かれ声を出させるわけにもいくまい...ちと子供騙しかも知れないがやってみるか...」
と、雪舟丸は足元にあった大きめの石を掴み、左に見える男のさらに左の壁を狙って投げつけた。
木製の壁に「ゴン!」と大きな音を立てて石がぶつかる。
「ん!?なんだ?」
気づいた男が音のした方へ歩き出すと、それを見ていた右の男も釣られるようにして向かう。
思惑通りにいった雪舟丸は機を逃さず右の男の背後へ素早く近づき。
「ヒュン!」
自ら発する常軌を逸した目視できぬ剣線によって男の首を刎ねた!
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