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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ87

 源蔵は部屋の前を通る木張りの廊下まで静かに移動し、障子を開けずに立ち竦む。

 父親に会う直前になって部屋へ入るのを躊躇ったのは、昔の記憶を含め様々な想いが頭をよぎった所為であった。

 と、人影に気付いた韋駄地蔵之介が障子越しに声をかける。

「そこに居るのは誰だ?」

「...................」

 源蔵が黙したまま動けず立ちすくんでいると...

「...源蔵だな?入るが良い...」

「!?」

 父親の唐突かつ余りにも意外な言葉に源蔵は少なからず驚いた。だがいつまでも廊下に止まっていては事が進まない。腹を決めた彼は片手を障子に当て緩やかに開ける...

 目の前には書道道具の筆を持つ父親の蔵之介が正座しており、不気味な姿の源蔵と目が合った瞬間に固まり、戸惑いたじろぐ表情が見て取れた。

「お、お、お前...源蔵なのか?」
 
 実の父親が敢えてわざわざ確認せねばならぬほど、源蔵の姿は変わり果てていたのである。

 父親の顔が強張るのを見た源蔵もまた動揺する。

「そ、そうだよ。正真正銘貴方の息子、長男の韋駄地源蔵だ...父上が驚くのも無理はない。僕は人に殺されかけたところを怪異によって救われ、このような姿になってしまったのさ」

「.............」

 蔵之介が絶句して驚き、筆を持っていたのも忘れ畳の上に落とす。

 その様子を正面から見下ろすように眺めていた源蔵が、己の優位性を感じ取り話しを進める。

「ところで父上。なぜ障子越しで立っているのが病床に伏している筈の僕だと思ったのです?」

「...........あ、ああ。お前の居る小屋に刺客を放ったのはこの父だからな...余りにも秤度の帰りが遅いものだから、夕方になって小屋を覗きに行ったのだ。さすれば小屋にあったのはお前の屍ではなく秤度の屍が転がり、お前の姿がなかったのでな...ひょっとしたら此処に来るのではと踏んでいたのだ...」

 蔵之介は源蔵が訊いてもいないことまで捲し立てるように話した。
 父親の口から真実が語られ、息子である源蔵の心は怒りと哀しみの混同する複雑なものとなった。

「なっ、なぜ?...病気と闘い、ようやく苦しみを抜けたというのに...」

 此処で蔵之介の顔が覚悟を決めた男の精悍な面持ちに変わる。

「悪く想うな。と言っても無理があろうな...全ては伝統があり名家である韋駄地家のためだ。無論、知らぬとは思うが十日ほど前の日、俺は小屋を密かに訪れて外から中を覗き込み、病気によって変わり果てたお前の顔を見てしまったのよ...」

 

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