刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ45 怪力
「おっとう!おっかぁ!見ててくんろ~!」
っと言う間に両親から離れ、満面の笑顔の伊乃は桑を掲げたまま畑へ駆けて行く。
又吉とトヨの二人が、大事なの娘を一人にしてはおけないと慌てて追いかけた矢先。
「せ~のっ!」
「ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!....」
何と何と!たった五歳の可愛らしいひ弱そうな娘が、自分の背丈の倍の長さはあろうかという重い鍬を軽々と扱い、雑草が生い茂り石ころの混ざった畑の土を又吉の何倍もの速さで耕して行くではないか!
「お、おおぉ...」
「まぁ....」
怪我をしまいかと心配していた又吉とトヨの二人は、言葉を失いただその光景を唖然としたまま眺め続けた...
余りにも長いこと驚いていた二人がようやく正気を取り戻した頃。
「おっとう!おっかぁ!終わったよ〜!」
身体を土だらけに汚して畑の隅に立つ伊乃が二人に元気な声を出して手を振っていた。
もちろん初めての畑仕事であったものだから、綺麗に耕したとは言い難かったけれど、夫婦二人が一日がかりでやるつもりだった面積を、たった五歳の女の子である伊乃がほんの僅かな時間でこなしてしまったのである。
「こりゃぁたまげた...本当にあの子はおいら達の娘かい...」
「あんた、怖いことを言わないでおくれよ。あの子は間違いなくあたしらの子よぉ....」
伊乃の行った信じられない光景を目の当たりにした二人が、疑ってしまうのも無理はない話しであろう...
と、この日を境に、伊乃は夫婦と共に田畑の仕事を手伝う、否、主力となって仕事をこなすようになった。
こんな驚くべき事態の原因は、伊乃の身体が同年代の普通の子らと違い、仙骨と仙血を産まれた時に神より授かっていたためであったが、そんなことは本人を始めとして両親も当然知るところにあらず、とびきり力持ちであること以外は他の子らと何ら変わらなかったので普通に暮らせたものだった。
いやいや、「普通に暮らせた」という言葉には語弊があったかも知れない。
里村伊乃が歳を重ねる度にその「怪力」は増していき、十八歳の頃になると、小さな山くらいなら一人で開拓してしまうほどになっていた。
その伊乃の大いなる働きによって、里村家は貧乏暮らしを抜け出すどころか集落一の長者となり、「日本昔ばなし」で表現されるような優雅な暮らしをしていたものである。
無論、伊乃の物語は「幸せに暮らしましたとさ」では終わらず、美しさにも磨きのかかった彼女の噂は遠方まで広がり、各地の男達から嫁に来て欲しいと声が掛かるようになる...
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