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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ48 狼の群れ

 その獣は徒党を組み連携して獲物を襲い、古くから人を喰らうとされる凶暴な狼に他ならない。
 
 不穏な遠吠えが耳に届き、伊乃の朦朧としていた意識が瞬時に研ぎ澄まされる。

「...狼か...随分と近くにいるようだな...」

 彼女が焚き火をしている地点に聴こえる遠吠えの音量や響き具合で大体の距離を掴む。

 付近に狼の群れが居たとして、現状最も安全なのは下手に動かず、焚き火の周りに身を潜めることが賢明かも知れない...
 伊乃は若いながらにそう考え、心許ないが武器の代わりとして目に付いた石や岩を拾い集め、焚き火を背にして薪木の上に座り込み、足元には集めた石や岩をいつでも投げられる状態にして置いた。

 獣は火を怖がるという印象があるけれど、果たして実際はどうなのであろうか。
 暗い森で火を焚くという行為は、逆に獣達に居場所を教えていることにもなる。

 ひょっとすれば集まった狼達が彼女に襲いかかって来るのは時間の問題かも知れなかった。

 彼女が周囲に注意深く目を配り、狼達に襲われた際の対処法をじっくりと考えていると、近くの草むらが僅かに揺れ「ザザッ」と音を立てた。

 微かな音を聴いた伊乃の身体に緊張が走り、大きめの石を一つ右手に持ち身構える。

 すると、草むらの中からヒソヒソ声で何やら人の言語が聴こえてきた。

「その石を投げないでおくれよ。俺は狼じゃないから」

 伊乃は思いもよらぬ人、男の声にハッとして石をそっと足元に置き、言葉を選びつつ小さな声で返事をする。

「したらば、ゆっくりとこちらへ」

 彼女の脳裏に「もしや山賊では?」という疑念も一瞬だけ過ぎったが、話し方と他に人の気配を感じなかったため、付近に狼がいることも踏まえて焚き火の側へ寄らせることにした。

「じゃぁ今から出る...」

 男は伊乃に言われたことをしっかりと守り、草むらの中からゆっくりと姿を現した。
 彼の姿は誰もが一眼見れば「見窄らしい」と頭に浮かぶような格好をしており、手作りの弓と矢を両の手に一つずつ持っていた。

 確かに見窄らしい姿の彼であったが、伊乃と変わらぬほど若々しく凛々しい顔立ちをしている。

 伊乃が彼を見るなり「こちらへ」手振りで伝え、男は彼女と少しだけ距離を取って薪木の上に腰掛け。

「寄せてくれてありがとう。でもそこら中に狼達が集まって来ている。もし狼達が襲ってきたら二人で協力して追い払おう」

 格好とは裏腹にしっかりとした口調で話す彼に、伊乃は目線を合わせてコクンと頷いて意思表示した。

 

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