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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ99 霊蟲(れいちゅう)

 落ち着きを取り戻した彼女は横に首を回し、隣で寝ていた筈の城太郎の姿が消えていることに気づき。

「あら?廁(かわや)にでも行ったのかしら...」

 部屋を見回すが城太郎の姿は無い。
 
 暫く経っても現れないものだから、真如は心配になり立ち上がろうとしたところへ。

「おっと、もしかして起こしてしまったかい?」

 暗闇から浮き出たように城太郎が姿を現し、真如は声こそ出さなかったものの少しばかり驚き心臓が高鳴った。

「...いえいえ、とても恐ろしい夢を見たものだから起きてしまったの...」

 真如がそう返すと、城太郎の口角がついぞ上がり不敵に笑ったように見えたのだけれど、部屋の中が暗いのと悪夢の余韻の所為だろうと思い、彼女はこれといって深く考えようとはしなかった。

「そうかい、可哀想に、それは災難だったねぇ。俺も急に目が覚めてさっき廁へ行って用を済ませたところだよ。さて、夜はまだ長い、仕切り直して気持ち良く寝ようじゃないか」

「...城太郎がそばを離れずに居てくれれば安心して寝れると思うわ...」

「ハハ、もう廁の用も済んだし大丈夫。さぁ横におなり」

「...はい...」

 愛する男の「大丈夫」という言葉に安心感を持った彼女は横になり、そっと目を閉じると暫くして深い眠りについたのだった...

 城太郎が隣に居ることで安心を得て眠る真如の寝顔は穏やかなものである。

 今更かも知れないけれど、二人の居るこの部屋は灯り一つ点けず、戸の隙間から溢れる月の明かりが無ければ殆ど何も見えぬほど暗い。
 外からは、人間界でいうところの「鈴虫」と同種であろう美しい虫の鳴き声が微かに響いてはいるものの、死んだように眠る真如の寝息が聴こえるほど静かなものであった。

 だが部屋の中へ僅かに入り込む月明かりが朧げに彼女の寝顔を照らした時、何かの黒い影が月明かりを遮る。

 影の正体。彼女と月明かりの間に割り込んでいたのは、隣で一緒に寝ていたと思われた城太郎が、彼女の横で立っていた為に出来たものであった。

「...父上より授かりしこの霊蟲(れいちゅう)。早速役立たせてもらうとしよう...」

 真如の寝顔を見つめる美しい青年の口元が嫌な角度で曲げ、彼女に聴こえぬ程度の声でボソッと独り言を呟いた。

 羅賦麻が仙人界に訪れ、城太郎と別れる際に密かに渡していた「霊蟲」とは、人間でいうところの幽霊に当たり、謂わば虫の魂魄が形成するあの世の蟲(むし)である。

 実はこの蟲、仙力や魔力を持つもので有れば育成することが可能で、育成者の意思によって様々な形に変化し、強力な能力でも植え付けられるという摩訶不思議で特殊な蟲であった...

 

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