刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ64 美青年
長いあいだ固まったように座り込み、首を回す以外の動きをほとんどしなかった真如が、ゆっくりと訪れた睡魔に抵抗せず瞼を閉じる...
そして頭をコックリ、コックリと縦に揺らし出したその時!
「っ!?」
今まで微塵も引きを感じさせなかった釣り糸に、まるで湖の主でもかかったかのような凄まじく重い引きが伝わり、真如は驚いてパッと目を覚まし、腕と足に力を込め湖に引き摺られないように踏ん張った!
「ぐっ!?ぎぎぎぎぎぎぎっ!!!!」
釣竿が今にも折れそうなほどしなり、釣り糸も一直線に限界近くまで伸びはち切れんばかりとなっている!
これが怪力の持ち主である真如でなければ、あっという間に湖へ引き摺り込まれていたかも知れなかった。
真如が持久戦になれば釣道具の方が耐えられぬと判断し、一か八か全力で一気に引き揚げようと試みる!
「せーーーーのぉおおおーーーーーっ!!!!!!」
「ザッズゥァバーーーーーッ!!!」
湖の中から釣糸を引いていた大物が遂に姿を現す!
「なぬーーーーーーっ!!!???」
姿を見た真如は目が飛び出るほどしこたま大きな驚きの声を上げた!!
それもそのはず!
彼女が陸へ釣り揚げたのは湖の主である巨大魚などではなく、人間の姿形をした立派な若い男だったのである。
草原の上に横たわるその男はぐったりとし、気絶しているようだが幸いなことに最低限の召し物は身につけていた。
大幅な予想外の展開に腰を抜かしてしまった真如は、暫く動けずにただ黙って男を眺め、「さて、どうしたものか」と頭の中を高速回転させ思案する。
気絶している男の顔はうっとりするほど美しく、この時代における男としてはずば抜けた美青年とも云えた。
真如がその美しい顔に見惚れ、結局何も思いつかぬまま眺めていると、男が気絶から回復し目をゆっくり開けて身体を起こす。
そして自身の両手がしっかりと動かせることを確かめ...
「ハハハ、お、俺は生き延びたんだな...」
彼がどう言った意味で笑い、そう言ったのかは分からないけれど、意識がはっきりとしていることは理解出来る。
「...貴方はいったい...」
見慣れぬ美青年にうっとりとした視線を送りつつ、真如が勇気を振り絞って声をかけた。
水も滴る良い男と云っても差し支えない彼が声に気付き面を上げる。
「ん!?...もしや...貴方が助けてくださったのですね。俺の名は『あく』...」
「?...」
男の喋りが途中で止まり真如が僅かに戸惑う。
「俺の名は、芥川城太郎(あくたがわじょうたろう)って云います」
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