一輪の廃墟好き 第9話 スマホ
探偵事務所としての予算の関係上、民宿「むらやど」で予約したのは一部屋だ。
僕の信用性や沽券に関わることなので断っておくが、未桜への下心があって一部屋しかとらなかったわけでは断じてない。
折角の機会なので付け加えておくと、未桜を異性として意識したことはかつてただの一度も無かったし、この先も意識することは無いだろう。
仮に意識するような前兆があれば、すぐに掻き消せる手段を取る心の準備はしてあるし自信もある!
と、強めに、そして紳士的に豪語してしまったけれど、「男女間に真の友情存在せず」説の肯定者側である僕が豪語しても、差し当たっての信憑性はゼロに等しいと思っていただいても結構だ。
しかしながら、そもそも今回の廃墟探索の目的である豆苗神社へは単独で行くつもりだったのだ。
民宿むらやどに宿泊一名で予約を入れた次の日、未桜に何気なく豆苗神社の話しをすると思いの外興味を示しめしてしまい、「絶対私もついていくからね!」と眉間に皺を寄せて半ば喧嘩腰に駄々を捏ねられたのである。
民宿むらやどに再び電話をしたのだけれど、「もう空き部屋はございません」との返答で仕方なく相部屋となった次第である...
「おっ、やっと井伊影村に入ったな」
僕は道端の左手に立っていた「井伊影村へようこそ」という看板の文字に気づき呟いた。
気持ち良さげに眠っている未桜の肩を左手で揺すり、約束通り起こそうと試みる。
「未桜起きろ。民宿にもうすぐ着くぞ」
「...ん、んん~」
未桜が起こされたことに気づきパッと目を覚ます。
そして助手席のシートをすぐさま元の角度に戻し、窓の外をキョロキョロと眺め出した。
「ぉうわぁ~!感動しちゃうなぁ~。私こんな長閑な田舎に来るのって初めてなのよねぇ」
寝起きとはとても思えぬテンションで未桜は感想を述べた。
確かに未桜の述べた感想の通り、見える景色は多くの田畑や森林ばかりで、民家はポツリポツリと数えられるくらいしか見えない。
「そうだ!ここってスマホの電波って大丈夫なのかな?」
「大丈夫だとは思うが念のため確認してくれ」
未桜が僕の指示を聞き入れ、車内のダッシュボードに放り込んでいたスマホを取り出し確認する。
「オッケー!大丈夫みたいだよ。しっかり棒ちゃん全開で立ってまっせ~」
「そうか良かった。実は少しばかり心配していたんだ」
因みに電波の状況が一目で分かるお馴染みの棒は、正式名称が「アンテナピクト」というらしい。
「やっぱりスマホが繋がってないと心配だもんね」
「ああ、スマホに依存しすぎるのは良くないけれど、利便性がな...」
今では国民のほとんどが当たり前に所持しているスマホも、昭和の時代には存在しなかった代物である。
僕は時折考える。果たして通信手段の著しい進歩は人類にとって幸せに繋がることだったのか?と...
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