一輪の廃墟好き 第53話 襖の隙間に
廃墟となる以前の用途などによって異なるのだが、僕がこれまで約30以上の廃墟探索を行った経験上、廃墟というものには共通した独特の匂いというものがある。
上手く言葉で表現できないのだけれど、大まかに言ってしまえば謎めいた「異空間」の匂いであり、通常生活を送っているだけでは嗅ぐことの出来ない特殊な匂いなのかも知れなかった。
ところで、気が付いてみれば僕の助手である鈴村未桜が、ある一点だけをジッと見つめて人形のように動いていない。
さっきまで威勢の良かった彼女の視線の先には、淀鴛さんの話しにも出てきた親子三人で寝ていたという寝室があった。
居間と寝室との間を隔てていた障子戸が壊れているために丸見えの状態であり、彼女の視線をさらに追ってみると、寝室にある物置の襖の隙間であることが分かった。
僕がその隙間を見た感じでは、ただ暗くて何も無いように見えるのだが...
「どうした未桜。君にはあの隙間に何かが見えているのか?」
「...うん。あの隙間に何か居たような気がするんだよねぇ...でも幽霊とかではないみたいだから安心していいと思う...」
安心出来るわけがない。
だってそうだろ。
例え彼女が見たものが「幽霊」でなかったとしても、何者も居ないはずのこの空間に、何者かがい居るようなことを聞いてしまったわけだから、僕の感情が安心と程遠い位置にあったとしてもなんら不思議なことではあるまい...
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