一輪の廃墟好き 第65話 思念
「未桜、僕達は肝心な場所を調べていなかったようだ」
僕はその「肝心」だと思った場所を彼女に指で指し示す。
「あっ!?本当だ!その中はわたしも調べてなかったぁ」
「灯台下暗し」と言ったところだろうか、僕達は釜戸の中に残っていた灰や炭を調べていなかったのである。
ある意味「間抜け」だったかも知れないが...
「一輪!これ使えば良いんじゃない?」
行動の早い未桜が、木製の棚に立て掛けられいた錆びれてボロボロのシャベルを僕に手渡す。
「...だいぶ劣化が進んで傷んでるようだが、何とかこれでいけるかもな」
僕は手渡されたシャベルを持ち直し早速釜戸の中に突っ込み、物証があった場合のことを鑑み丁寧にすくって手前に運び出す。
灰や炭は大した量が残っておらず、十回前後で全てを掻き出すことが出来た。
僕達は灰を吸い込まないよう顔の下半分をタオルで覆って首でとめ、念のために用意しておいた薄く白いゴム手袋を装着し、釜戸の中から出した灰と炭の山を手探りで調べた。
灰は完全に乾き切った状態でサラサラしており、時折見える黒い炭は薪が燃え尽きたあとの単なる木炭でしかなく、僕達の高まった期待値を裏切り何も見つかることはなかった。
ここでまでして何も見つからなかった場合、普通の探偵であれば諦めてしまうのだけれど、幸か不幸か僕は普通の探偵とは少しだけ違う。
「試してみるか...これで何も起こらなければ諦めよう...」
「おっとぉ!ここで一輪師匠の必殺技が炸裂するんですねぇ♪」
だ~れが「師匠」だ!
そして「想いの線」はそんな物騒なもんでもないわ!
などと心の片隅で彼女にツッコミを入れながら、崩れた灰の山から灰を右手で掬い上げ左の掌に小さく盛った。
僕は盛った灰のてっぺんに右手の人差し指をそっと乗せ、自己流の決まり文句を呟く。
「想いよ、導け...」
「ポッ!」
ガスコンロの火が極弱で点火した時ののような音を立て、手の甲の僅か上に青白いアポロチョコ大の光球が姿を現した。
「やったぞ!上手くいった」
「うんうん♪」
上手くいくかどうかは「神のみぞ知る」といった一か八かのお試しは功を奏し、発動した青白い線が真っ直ぐ一直線にに伸びる。
これまで僕の特殊能力「想いの線」について説明したこともあったけれど、少しだけ補足しておこう。
「想いの線」は触れた物質に潜む人の思念と、その思念と深い関係性を持った人物とを具現化した青白い線が繋ぐ。
ただこれには「線の繋がる人物は生存していなければならない」といった縛りがあるらしい。
つまり、僕の能力が上手く発動したということは、掌に乗った灰と深い関係性を持った人物が、この世にまだ生存していることを示していることになるわけだ...
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