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一輪の廃墟好き 第56話 足跡

 取り敢えずあれが山猫だったかどうかは兎も角として、僕達は淀鴛家の廃墟探索を再開した。

 燈明神社にも多くの足跡があったけれど、淀鴛家の居間と寝室の畳にも多くの足跡が見受けられた。

 この足跡の主がどのような目的で家の中に入り、果たして人物像は如何なるものなのかまでは正直さっぱり分からない。

 だが少なくとも、僕が燈明神社を訪れるきっかけとなったブログを作成した人物が、ネット上にアップしていた画像からして訪れたのは紛れもない事実であり、数種ある足跡の一つはその人物のものである可能性が高いだろう。

 もしも足跡だけで人物を特定することが可能ならば、探偵業務の遂行に大いに役立つのだが...

 然るに僕のなんちゃってサイコメトリー能力である「想いの線」は、こういった人の作り出す足跡や指紋跡、他にはシミなどにも残念ながら全く反応してくれない。

 例えば計らずとも助手の未桜が作った出来立てホヤホヤの足跡に触れてみても、きっと「想いの線」は発動することなく徒労に終わってしまうこと請け合いである。

 などと考えつつ懐中電灯で室内を照らし、山猫(仮)が潜んでいた押入れの襖を開けて中を調べる。

 中には淀鴛さんの家族が30年前まで使用していたであろう布団一式がそのまま、否、クリーニングに出しても取れないような汚れにまみれ、そこら中が傷んで綻び、二度と使用出来ないくらいにボロボロの状態で放置されているが、あの山猫(仮)にとっては格好の寝床となっているだろう。

 ふと、淀鴛さんが語ってくれた30年前の話を思い出す。

 確か事件当時、この布団は家族三人が寝るため畳の上に敷かれていたのではなかったか?

 いや待て、自ら疑問視しておいて直後に思い直すのもなんだけれど、そんなに深く考えるまでもなかった気がする...

 この家で起きた30年前の悲惨な事件は他殺ではなく自殺だと警察が断定したのだから、その後にでも井伊影村の村民などが親切に片付けでもしたのではないだろうか。

「これが例の時計ねぇ」

「ふぁっ!?」

 僕は彼女が突如として出した声にビクッと反応し、情けなくも変な声をあげてしまった。
 
 敢えて断っておくけれど、これは僕が臆病者だという指標などには決してならない。

 恐らくは殺人事件のあったであろう薄暗くそれなりに雰囲気あるこの廃墟で、集中して物思いに耽っているところへ声が突然飛び込んで来れば、誰だって驚いてしまうというものだ。

 そう、しつこいくらいに何度でも言わせてもらおう。僕が臆病者なわけがないのである。

 臆病な奴がたった一人で廃墟探索などできよう筈もないのだから...

 

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