一輪の廃墟好き 第79話 老婆の霊
この人魂は最初墓石の横に浮いていたのだが、どうやら墓石の周囲をゆっくりと時計回りに移動しているようだ。
棒立ちして墓石の方をジッと眺めている未桜に問う。
「時に助手よ。僕には墓石のところに人魂なるものが視えているのだけれど、やはり君には人の霊体的なものまで視えちゃっているのかな?」
「...あっ、あぁ、うん。墓石の前に立ってわたし達の方をジッと見てるんだよねぇ、着物を着てる年老いた女性が...」
なるほど、霊感の強い彼女にはやはり視えていたか。
「それで、僕達に何かメッセージみたいなものはありそうかな?」
人と違う特別な能力を持つ僕にはある程度の霊感はあると思う。だが人魂を見たり、何かしらの存在を感じることは出来ても彼女のようにハッキリと幽霊なるものを見たことは一度もない。
僅かでも幽霊から事件の手掛かりを得たかった僕は彼女に頼るしかなかった。
と言っても彼女が幽霊と会話できるかどうか定かではないのだが...
「...ううん、ただずっと悲しい顔してるだけで何も動きがないんだよねぇ。一輪、ちょっとあのお墓のところまで行ってみない?」
「...........」
僕は返答に困り思わず黙してしまった。
いやいや、だって聞いたことがないぞ。肝試しなどで「何かが居るかも知れないからあそこへ行ってみようか?」ならまだ理解出来るというものだが、既に幽霊の存在を確認できている場所へ赴こうなどと誰が考える?
「お、おい未桜」
そんな僕の思惑を無視するかのように、彼女は幽霊の居る方へ足を進めてしまったのだった。
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