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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第1話 旅立ち ノ7

 異変は影の薄く伏兵路線雰囲気満載の藤間滝之助の身に起きた。

 滝之助の目が突然くるくると回り出し、絹江が注いだ二十二杯目の酒を呑もうと足下の盃を掴もうとするが、取ろうと伸ばす手がスカスカと的を外れて空を切る。

「あれっ!?あらっ!?おろろろろろろっぉ!?......うっぷ!?」

 下手に動いて胃の中の酒が逆流したのだろう。
 滝之助が吐き気をもよおし両手で必死に口を押さえる。

「どうしたのじゃ滝之助!酒を吐いてしまえば負けぞ!呑み込んで踏ん張るのじゃ!」

 側から見れば絶望的に苦しそうな滝之助に無茶振りをする光圀。

「.....んんんんんんんんん~!!!!んんん!?」

 滅多に聞くことのない光圀の励ましの言葉に応えようと、滝之助が奮起して口の中に逆流した酒やら何やらを無理矢理呑み込もうとするがなかなか喉を通らない。

 そして遂に、力一杯口を押さえていた手の指の間から酒やら何やらの液体が漏れ出した。

「滝之助ーーーっ!?よくぞそこまで持ち堪えた!だがもはやここまで!外でたんと吐いてくるが良い!!万が一この間で吐けば切腹とまでは言わんが三日は飯抜きじゃああああああ!!」

 励ましの言葉が無に帰すほどの光圀の掌返し。まぁこのままでは場が悲惨極まりない状況になってしまうのは必然。光圀が狼狽してしまうのは仕方があるまい。

「んん!?んぐぐぐぐぐぐぅぅぅ!!」

 余りの苦しさに冷や汗まで出て来た滝之助がコクッコクっと頷き西山御殿の出口を目指して駆け出した!

 だけれど混乱して周りが見えていないのか柱に背を預けて眠る雪舟丸に一直線!

 滝之助の膝があわや顔にぶつからんとしたその時!
 熟睡中の雪舟丸が上半身を流れるように動かしさらりとかわした!?
 これは光圀の言った言葉の裏付けが実証されたことに他ならない!かも知れなかった。
 
 兎も角、大災難を免れた滝之助は御殿の外へ到達し庭先の草むらへ遮二無二飛び込み。

「おぅっ!おろろろろろろろろろろろろろーーーっ!!」

 グロテスクな様子につき流石にこの場面の表現は控えたい。
 が、嘘か誠かこのとき滝之助は身体にある全てを心ゆくまで吐き出し、出来上がった大きな水溜りの上で永眠したのかと間違われるほど死んだように眠っていたと云う。

 果てさて、西山御殿内では残った三酒豪の呑み比べが滞りなく続いていた。
 
 顔を猿の如く真っ赤にした「ござる侍」の蓮左衞門が横のお銀に声をかける。

「へっへっへっ〜。どうしたどうしたお銀殿!顔が彼岸花のように紅く染まっておるでござる。Yo!」

 蓮左衞門は酔えば酔うほど陽気になる男であった。

 

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