刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第1話 旅立ち ノ9
そんな仙花に柔かな笑顔の光圀に話しかける。
「いやいや仙花。今宵の宴はこれにて御開きじゃ。周りを見てみい、み~んな朽ち果てて眠っておるわい」
光圀に言われ、キョトンとして周りを見渡す仙花。
「ふむふむ、いつの間にやら皆倒れてしまっておるのう」
話す二人の他は絹江が一人でせっせと後片付けに奔走しているだけで、あとは何も被らないまま壁にもたれたり、床に突っ伏して皆寝てしまっていた。
起きていたはずの九兵衛も疲れ果て倒れたようである。
「仙花。眠いだろうが明日の話をせねばらならい。儂はお主に渡す代物をちょいと取って来る。それまでに寝る準備を済ませ隣の寝室で待っておれ。良いな?」
「あいわかった。だがじっさまぁ。出来れば急いでおくれぇ。何だか急に酒が回った気がする......」
「承知した」
これ以上酒を呑めぬと悟った仙花に急激な眠気が訪れ、とろんとした目で年寄りを急かしたけれど、光圀はコクンと頷き足早に部屋をあとにした。
「最後の夜だというのにすまんのぉ~絹江ぇ。儂は手伝いたいのだが身体が重くて仕方ないぃ......」
もはや歩くことすらかなわなくなったのか、床を這いずり脚をズルズルとひきながら絹江に謝辞?を言う仙花。
「良いんですよぉ。これが私めの仕事です。それに仙花様は今宵存分に楽しめた御様子。あとは光圀様とじっくりゆるりとお話しをしておくんなまし」
絹江はそう言うと、囲炉裏に掛かる鍋を掴み台所へと去って行った。
「あやつはほんにできた奴よのう...」
そう呟く仙花がようやく辿り着いた寝室の襖を開け、寝床へコロコロと遊ぶように転がる。
「も、もうだめじゃ。眠くて仕方ない。ま、瞼がお......」
呟きを言い終わる前に瞼を閉じてしまい、すぴ〜と一つの寝息をたてたその直後。
「こりゃ仙花!寝るでない。話があると言ったであろう!ほれ、酒も持って来たぞ。起きるが良い」
光圀が仙花の紅い頬をパシパシと叩き起こそうとする。
本格的に寝ついた彼女であれば起きなかったかもしれないが、幸いにして未だ眠りは浅く「酒」という言葉が効き目を覚ました。
「ん、んん〜。じ、じっさまぁ。酒を一口呑ませてぇ」
「ええ〜い。手の掛かる酔っ払いじゃのう」
起きて直ぐに酒を要求する娘の口に酒の入ったお猪口をあてる光圀。
言葉とは裏腹に刀姫を見る元水戸藩主の表情は仏の如く優しかった。
「うむ、ちょいと気がしっかりして来たぞ。じっさま。話とやらを聞こうではないか」
お猪口一杯の酒が喉を通り、それだけで元気を取り戻した仙花が正座して光圀と向き合った。
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