刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第1話 旅立ち ノ15
「ありがたく頂戴しておくぞ。じっさま♪」
「うむ、嬉しそうで何よりじゃ」
手に取った脇差「風鳴り」をサッと鞘から解き放ち、刃を目の前に真っ直ぐ突き立て興味津々で眺める仙花。
「ほ、ほほ~♪これはこれは度肝を抜かれる良業物だ。じっさまの言っておることはあながち間違いではないのう。本当に鉄まで斬ってしまえそうだ」
「こっこっこっ。そうじゃろそうじゃろ」
光圀は皺の多い顔を益々皺くちゃにして終始柔かな笑顔をしている。
血が通っていないとはいえ歳の離れた娘に与えたのは刀。紛れもなく敵を、人を殺傷するための道具を与えたというのにこの二人からそれは見て取れない。
まるで歳頃の娘に美しい召し物や、かんざしやらを与え与えられたような、幸せに溢れた雰囲気があったものだ。
「ん?しかしこんな大事な物を飲み比べの褒美にするとは......もし、儂が勝たなければ蓮左衞門やお銀に渡っておったのか?」
仙花の言い分はもっともであろう、
自ら「家宝」と言ってはいたが、冗談ではなく正真正銘極上の刀を準備していたのだから。
極めて希少価値の高い代物をあのようなおちゃらけた遊びの褒美にするとは...
とここで光圀の顔から笑みが消え、大真面目な顔をして質問の答えを語る。
「儂はのう、仙花。飲み比べでお主の勝利は揺るぎないものと確信しておったのよ」
「....解せぬのう?何故十六のうら若き乙女が、しかも初めて酒を呑むというのに勝利を確信するとは...どう考えてもやはり解せぬ」
仙花は口にした言葉通り解せぬ顔になっていた。
「.....うむ、そろそろ真実を語る頃合いじゃな。これより語るはお主の将来にも関わる話ぞ。心して聞くが良い」
「うむ、勿体ぶらずに早う話しておくれよじっさま」
今更ではあるけれど、天下に名を轟かす水戸光圀に、このような無礼千万な口の利き方をして無事でいられるのはこの仙花を含め世に数人しか居まい。
「まぁ一生に一度の告白じゃて、そう急くでない....先ずはさっきから儂の目の前でウヨウヨさせておる風鳴りを鞘に納めよ。危なっかしくて敵わん」
仙花は風鳴りを抜いてから一度も鞘に収めず、会話をしながら無意識に光圀へ切先を向けていたのである。
「おっと!?これはうっかりだった。隣のうっかり九兵衛のように忘れておったわ」
余計な一言を添えて刀を鞘に納める仙花であった。
「では改めて申すぞ。勘のいいお主のことだから薄々は感じておろうが、お主はのう仙花。お主は儂や絹江に滝之助、それに他の人々とは存在意義を異にする者なのじゃよ」
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