刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第1話 旅立ち ノ10
この寝室にある灯りは温かみは感じるが乏しい蝋燭一本の光のみ。無論、部屋全体を照らせる訳もなく、空間の半分程は薄い暗闇に包まれていた。
めんと向かい合う光圀の顔から笑みが消え、此処に来て仙花が初めて見るような真剣な表情になる。
かつてない光圀の雰囲気や挙動を察し、仙花は両手で襟元を整えグッと気を引き締めた。
「...まずは明日からの旅のことだが、馬などは使わず徒歩で、つまりは『膝栗毛(ひざくりげ)』によって旅をするのじゃ」
全国行脚の旅を徒歩でと途方も無いことを言われた仙花であったが特に同様もせずに返す。
「じっさま。儂は言われずとも始めからそのようにするつもりであったぞ。馬などに乗って旅すれば見落としてしまう物事も多かろうからな」
正面に座す娘の物言いに得心のいった表情をする光圀。
「天晴れ仙花。若いのに良い心がけじゃ。儂は立派な娘を持ったのじゃのう。よし、話を続けるぞ。お主の大事な大事な刀を此処へ持って来るのじゃ」
「刀を?」
「そうじゃお主が小さき頃より持っておるあの刀じゃ」
「....承知。只今取って来るぞ」
何故このような夜更けに刀を要求されたのか疑問に思う仙花だったけれど、光圀が意味も無く要求するような無駄なことはすまいと考え、暗い部屋の隅に置かれる刀掛けまで移動し刀を手に取って戻る。
「ほれ、言われた通り取って来たぞじっさま」
「うむ。取り敢えずそこへ座るのじゃ」
素直に元いた場所へ刀を膝に置き正座する仙花。
刀を手にして何故だか分からないが若干の高揚感が窺える。
「で、次はどうすれば良いのだ?」
「そう慌てるでない。では、ゆるりと刀を鞘から抜き刃をその目で確かめるのじゃ」
「刃を?」
「そう、刃をじゃ」
未だ意図が読めずに聞き直す仙花を諭すような口調で言い直す光圀。
仙花が左手で鞘を掴みゆっくりと丁寧に刀を抜く。
薄暗い部屋の中にあっても刀の刃は綺麗に磨かれており相当な斬れ味を想像させる。
「ほうほう、お主が日頃から手入れしているだけあって美しい刃をしておるのう」
「ハハハ、これの手入れだけは毎日欠かさずやっておるからのう♪」
光圀に刀を褒められた仙花は照れながらも嬉しそうに笑った。
「良かろう、もう十分じゃ。刀を鞘に戻せ」
言われた仙花の反応は今一であったが黙って刀を鞘に戻す。
「お主も知っておろうがその刀の柄には頭が無い。柄の空洞にこれをはめ込むのじゃ」
「これは.........」
光圀に渡された物は、鉄か石か区別がつかぬ物質で出来た黒く細い板であった。
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