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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ13

 昨日まで元気ハツラツで健康そのものだった人間が、今日にはこの世から忽然と消えてなくなっていたなどという悲しくも儚い事象が起きてしまう事実は、いく年月をを越えようが神以って今も昔も変わりはない。

 諸文献によれば、江戸時代を生きる人の平均寿命は三十から四十代だったと伝えられている。治安の悪さも理由の一つではあったろうけれど、そんなことは平均寿命を下げる原因の片鱗に過ぎなかった。では何が一番の原因だったのか?
 少し考えればわかることだが、どうやら衛生面の悪さに問題があったらしい。
 免疫力の弱い子供から尽く病気にかかり、治療法もお粗末なものばかりで大半の子供は成人に達することなくこの世を去ってしまったということだ。
 
 ゆえに、大事に大事に育てた子供達を拐うような輩の集まりである芥藻屑は、善か悪で分けるならば世間的には絶対悪である。

 と、そこまで考えて行動しているのか否かは別として、芥藻屑どもの墓を離れた仙花の一行は下総国の奥地へと歩みを進め、今宵の宿を探し求めていた。

 一行の中で唯一、化け物じみた体力を持たない九兵衛が下手れた顔で物申す。

「いやぁ、旅の初日からゴタゴタで疲れましたなぁ。もう腹が減って腹が減って死にそうでやすぅ」

 根性無しの「うっかり九兵衛」にさり気なく冷ややかな視線を贈るお銀。

「あらあら、旅の初日から大忙しのあたしを差し置いてそんなことをよく口にできたものだわねぇ...とはいえ、あたしも早う湯を浴びたい気分だわ」

「儂もお銀に激しく同意するぞ。肌がべとついて気持ち悪いったらありゃしない」

「仙花様もたまには女子らしいことをおっしゃるのでござるなぁ。拙者は安心しましぞ。ハッハッハッ!」

 蓮左衞門は怪力の持ち主の上、一応それなりに剣の達人でもあったのだが、ガサツで野暮なところがたまに傷な侍である。
 仙花が蓮左衞門をキッと睨んで言う。

「蓮左衞門。どこが女子らしくて何を安心したのか言ってみよ」

「え、あ、いえいえ、拙者の声が滑っただけでござるに悪しからず」

 睨まれた蓮左衞門がしどろもどろに応じると、口を尖らせた仙花はプイッと顔を空へ向けた。

 その目に映るは微かに残った夕陽を浴び、美しい朱色に染まった雲がゆっくり流れ行く。

 雲を見る仙花の表情が和らぎ、綺麗な瑞々しい瞳に薄らと涙が滲む。

「なんとも...美しい世界だのう...」

 己が涙を流していることに気付かぬ仙花にお銀が一枚の布をそっと手渡す。

「本当に、美しゅうございますねぇ...」

 

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