刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ12
「....拙者は眠くなって参りましたゆえ、話しを端折り短く語りましょう...当時の拙者と武蔵殿の実力は伯仲し、延々と百合以上刀を交えました...膠着状態が続いた決闘の行方はもはや持久力勝負となり、年老いた武蔵殿の剣速に鈍りが見えたところで若さに勝る拙者の最速の突きにて勝負が決した次第にございます」
「殺したのか?」
「いえいえ、首の皮を一枚だけ突き破る寸止めです。武蔵殿は『見事なり』と褒めてくださいました。それと、『お主とは互いが全盛期の時に雌雄を結したかった』とも...」
自身が全力で放った最速の突きを寸止めにできたという事実は、それだけでも雪舟丸が並大抵の達人ではないことを物語っていた。
「善い漢だったようだのう」
「ええ、あのお方と勝負できたことは拙者の一生の宝にございます。もしまだ生きているならもう一度...すぴぃ~すぴぃ~すぴぃ~...」
話し疲れたというわけではなかったろうが、居眠り侍はいつものように寝息を立てて眠ってしまった。
「儂も会ってみたかったのう、宮本武蔵に...」
「仙花様。雪舟丸殿の話し方から察するに、武蔵殿は未だ御健在の可能性もろうかと。勝負云々は別として、運が良ければ何処かで会うことができるやも知れませぬ...」
「そうであるな...時にお銀。其方の見立てでは雪舟丸の実力は如何なものであったのだ?」
芥藻屑の賊どもを討ち払わんとした仙花を引き留め、雪舟丸の実力を測るために単独で戦わせたのはお銀だったことを思い出した。
「...余り褒めたくはございませぬが、手前の想像の遥か上をいく強さを持ち合わせているかと。刀での勝負では勝てる気が致しませぬ」
お銀が敢えて「刀での勝負」と言ったのは、多種多様な戦術を持つ忍者の己であれば僅かでも勝機ありという含みを入れたのかも知れない。
「うむ、儂も同意見だ。そのうち雪舟丸から剣技を教わるとしよう...」
とここで、怪力を活かして全ての屍を早々と穴に放り込んだ蓮左衞門が報告する。
「お銀殿~!一切の屍を穴に運んだでござるよぉ!埋葬の方を頼み申す〜!」
「あいよぉ」
お銀は返事をすると蓮左衞門と九兵衛の待つ丘に近づき、土遁の術を使ってあっという間に埋葬を済ませたのだった。
居眠り侍を除いた四人は、芥藻屑の屍を埋葬した簡易な墓の前に並び黙祷を捧げ手を合わす。
「悪党といえども人は人。今世での罪は消えぬだろうが、お主達がもしも輪廻転生によって生まれ変れたならば、善人として一生を過ごせよ...」
仙人の血が影響しているのか、十六歳の少女が口にするものとは到底思えぬ言葉を献じる仙花であった。
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