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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ14

 辺りには人工的な建造物は一つとして見当たらず、殺風景で長閑な田舎道に佇み仙花と共に流れる朱色の雲を眺める一行。勿論、協調性零の居眠り侍は寝ているがもはや気にする者は誰もいない。

 このとき仙花の流した涙はどういった感情から引き出されたものだったのか?
 六年のものあいだ家族として一つ屋根の下に暮らした光圀との別れを今更ながら悲しんだのか、それとも芥藻屑の悪党どもの命を奪ったことを嘆いているのか、結局のところ誰も問わなかった、否、敢えて誰も訊こうとしなかったためその真相は誰も知る由はない。
 だがしかし、一つだけまごうことなく確かなこともありはした。蓮左衞門が己の不用意な言動の所為ではないかと、ずっと心臓が爆発しそうなほどドキドキものだったという話しである...

 雲の横を三羽の鴉が通り過ぎようとした頃、仙花はお銀に渡された布で涙を一拭にしたあと皆に告げる。

「おっと、すまんかったのう。余計な時を過ごさせてしまったな。陽が完全に沈む前に宿をとらねばならぬ。少し急ぐとしようか」

「時には感傷に浸ることも大事なことかも知れませぬゆえ、仙花様が謝る必要などさらさらございませぬ。手前も久しく少女の頃に見た風景を思い出し、感傷に浸らせて頂きましたよ」

 お銀がニコッとして美しい笑顔を向けると、仙花も釣られるように笑顔になった。

「そんなものなのだなぁ...」

 得心のいった仙花は先頭をきって道を歩み始め、他の者達も遅れぬよう黙って後に続く。

 一刻ほど駆け足に近い徒歩を続けた頃には、辺りはすっかり闇に包まれ暗くなっていた。

 引き続き速度を落とさずに先頭を歩く視力抜群の仙花が暗闇の先の何かに気付く。

「おっ!?皆の者喜べ!見えた!遂に灯りが見えたぞ!」

「おお!左様にござるか!?良かったのう久兵衛!ほれ、もう一踏ん張り!」

 暗くて分かりづらいが疲労困憊で死相の出始めているであろう久兵衛の背中を蓮左衞門が手加減を加えてドンと押す。

「どひゃっ!!?っっとと...れ、蓮さん、いきなりひどいでやんすよぉ。足がもつれて転んでしやいやさぁ」

「ハッハッハッ!転ばずに済んでおるのからよいであろう。それよりほれ!仙花様のおっしゃった通り灯りが見えて来たぞ。これでやっと美味い飯と熱い風呂にありつけるでござるよ!」

 この時、蓮左衞門の「飯」という単語にピクリと反応した孤高?の居眠り侍がいたのだけれど、暗い上に口を全くきかないためか、皆にすっかり存在を忘れ去られ気付く者は一人として居なかったと云う。

 

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