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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ38

 とまぁこんな阿呆な一幕もあり、やや緊張感に欠けるとも云えたけれど、道中気がピンと張り詰めっ放しだった一行の面々からすれば、命懸けの戦前に気の抜ける一幕でもあった方が丁度良かったのかも知れない。

 一行は、九兵衛が自身の治療を終わらせたあと、道らしき道もあったが敢えて通らず、夜明けが近いとはいえまだ薄く暗い森を無言で駆け抜けた。

 半刻も走らぬうちに先頭を駆ける仙花の目に火の光が映る。

「どうやら着いたようだぞ。芥藻屑の巣窟に...」

 後ろを振り返り一行の面々に仙花がそう声をかけると、それぞれの表情が引き締まり黙って頷いた。

 芥藻屑の巣窟「蛇腹(じゃばら)」は、山の斜面を削って開拓し、先の尖った太い丸太を何本も埋めた塀によって囲まれており、規格の統一されていない社が何軒も建てられいて、もはや一つの村集落と云っても差し支えのない規模であった。

 仙花一行は蛇腹を一望できる丘の巨大な岩から眺めている。

 蛇腹の四方の端にある高台の炎や社全てに視線を流したお銀が口を開く。

「四方の高台に見張りが一人ずつ、それに三方の門には二人ずつ...右手の縦長の社三件にも見張りがおよそ十人ほどおりますゆえ、囚われた人々はかの社に集められているものかと...」

「...うむ、儂も同意だ。それと、あの中央上段に建立された微妙に豪華な社に韋駄地源蔵がおるやも知れんのう...お銀よ、此処は儂に作戦を立てさてはくれぬか?」

 無論、齢十六の仙花に戦の経験は無い。しかし、光圀が呑むと時より戰の話を聴かされ、西山御殿の蔵にある兵法書を読み漁っていた彼女である。
 それを知ってか知らずか、甲賀の里ではくノ一頭領を務める経験豊富なお銀であったが素直に従う。

「御意のままに...」

 仙花は「よし」と頷くと眺めていた蛇腹から視線を外し、後方に控える一行の面々の方へ身体を向けた。

「まずは....起きろ、雪舟丸」

 緊張感漂う場面にも関わらず延々と眠る居眠り侍に声をかけると、寝起きの合図となりつつある「鼻提灯破裂」を成した雪舟丸が目を覚ます。

「....いよいよ戦の始まりですな...」

「そうだ。これより戦が終わるまでの間は其方の居眠りを禁ずるぞ」

「...極めて委細承知にございます」

「うむ、作戦はこうだ。話し終えたのち、先じて儂が四方の見張り台に立つ者と三方の門番を射る。したらば儂は正面、蓮左衞門は東、雪舟丸は西から蛇腹へ侵入し中央にある社へ向かうのだ。お銀と九兵衛はその間に彼処の崖を降り囚われている者共の解放へ向かえ。社の見張りは気付かれぬよう暗殺するのだ。此処までは良いな?」

 

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